役所受付窓口での会話から
- 2011/5/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 磯村 幸一郎
市役所や区役所の、商工課、産業振興課などと呼ばれる部署では中小企業者のために「セーフティネット5号認定事務」を行なっております。「セーフティネット5号」とは業況の悪化した中小企業の資金繰りを円滑にするため、金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が100%債務保証する制度です。セーフティネット保証には1号から8号まであり、通常のセーフティネット5号は古くからありました。それが平成20年11月からは「緊急保証制度」、22年2月からは「景気対応緊急保証制度」の名称で対象業種拡大、借入期間延長、保証料率の優遇等が大々的に行われ、その利用も画期的に増えてきました。今年の4月からは通常のセーフティネット保証に戻り、対象業種も大幅に減少する予定でしたが、東日本大震災の影響もあり、業種の縮小は6ヶ月間延長されることになりました。従って、原則全業種(中分類の82業種)が引続き保証対象となっております。ただし4月から名称は「セーフティネット保証5号」と変わり、保証料率,保証期間、据置期間が変わっております。
この5号認定の受付現場でこのような会話が交わされることがあります。『必要書類の「登記簿謄本」はありますか?』「いえ用意しておりません」『そこにお手持ちの「履歴事項全部証明書」が「登記簿謄本」ですよ』「ああ、そうですか」
「登記簿謄本」と「履歴事項全部証明書」とは厳密にいえば同じではありません。前者は「謄本」の定義である原本の内容をそのまま写し取ったものであるのに対し、後者はそうではなく、コンピュータ用に打ち直し記憶させたものをアウトプットしたものだからです。しかし、一般的には両者は同じものとして取り扱われております。現在、商業・不動産登記はすべてコンピュータ化されており、旧「登記簿謄本」に相当する証明書を申請すると、特に断りのない限り「履歴事項全部証明書」が発行されます。
「履歴事項全部証明書」に似たものに「現在事項全部証明書」があります。現在効力が有効な事項のみが記載されたものです。これはコンピュータ化で新設されたもので、謄本が発行されていた時代にはこれに相当するものはありませんでした。
5号認定の必要書類として「履歴事項全部証明書」でなくては不可とする役所と「現在事項全部証明書」のどちらでもよいとする役所があります。役所によって違います。役所間の違いといえば、これらの書類の発行期間が3ヶ月以内でなければ不可とする役所と6ヶ月程度ならよいとする役所があります。原則、原本提出を要求する所とそれにはこだわらないで寧ろお客さまに費用負担の掛からない、写しの提出を推奨しているところもあります。
因みに「履歴事項全部証明書」「現在事項全部証明書」は「印鑑証明書」と同様、基本的には、有効期限はありません。一般的に「3ヶ月以内のもの」を要求されることが多いのですが、これは、提出先が決めていることで、有効期限ではありません。ただし、不動産登記の印鑑証明書は法律で3ヶ月以内と決められております。
以上述べた「登記簿謄本」は「商業登記簿謄本(法人登記簿謄本)」のことですが、同じ「登記簿謄本」といっても「不動産登記簿謄本」もあります。「戸籍謄本」も謄本の一種です。これらも現在では、コンピュータ化(戸籍は80%)で、おのおの「不動産登記事項証明書」「戸籍全部事項証明書」と呼ばれています。
言葉の定義をはっきりさせ、使い分けをしないと思わぬ誤解が生じることもありますので、気を付けたいものです。