生命保険の資金繰りへの活用
- 2011/7/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 入谷 和彦
皆様のほとんどの方は、生命保険に加入されていると思います。しかし、生命保険が持つ様々な機能については、よくご存知でない方を多く見かけます。ここでは、生命保険の機能を資金繰りに役立てる例をご紹介します。
まず、説明のために、簡単に用語を説明します。
・契約者 :生命保険会社と保険契約を結び、契約上のさまざまな権利を持つ人。
・被保険者:その人の生死・病気・ケガなどが保険の対象となっている人。
・保険金 :被保険者が死亡した時に生命保険会社から支払われるお金。
・保険料 :契約者が生命保険会社に払い込むお金。
生命保険には様々な種類がありますが、このうちの定期保険は、いわゆる掛け捨てといわれるもので、定められた保障期間に被保険者が死亡した場合に保険金が支払われますが、保障期間を過ぎると、お金は支払われません。保険料は安いです。保障期間は10年以下が多く、途中で解約しても、お金は支払われません。
しかし、最近はどこの生命保険会社でも、途中で解約した場合に払い込んだ金額に応じたお金(解約返戻金といいます)が支払われる長期の定期保険を販売しています。保障期間は20年~40年と長期で、保険料も高くなりますが、企業が契約した場合は、支払った保険料の半分を損金算入することができ、税金を軽減できます。
一つの例を示します。なおこれは、あくまで説明のための例で、詳細な金額や条件は保険会社によって異なってきます。
契約者:会社、 被保険者:経営者、 保険金額:5000万円、保険料:年額170万円、
実効税率:40%、 保障期間:経営者が54歳で加入し99歳になるまでの35年間。
<保険契約の推移表>
年齢 年度 保険料累計 損金算入
累計 軽減税額
累計 実質負担額累計 解約返戻金 実質
返戻率
59 5 8,500,000 4,250,000 1,700,000 6,800,000 7,095,000 104.34%
64 10 17,000,000 8,500,000 3,400,000 13,600,000 14,315,000 105.26%
69 15 25,500,000 12,750,000 5,100,000 20,400,000 21,390,000 104.85%
74 20 34,000,000 17,000,000 6,800,000 27,200,000 27,995,000 102.92%
この例では、契約後5年を過ぎると、解約返戻金は、実質負担額(支払った保険料から税金の軽減分を差し引いた額)を若干上回ります。例えば、契約後10年で解約した場合、1431.5万円の解約返戻金が支払われますが、それまでの実質負担額の累計は1360万円です。
年間の保険料170万円は安くはありません。しかし、契約後5年(契約によっては7~8年)を経過した後ならば、会社の資金繰りが悪化した時に、この保険契約を解約すれば、実質負担額を若干上回る金額を、解約返戻金として受け取ることができます。つまり、銀行とは別の場所に、資金をプールしておくことができることになります。
もちろん、保険契約の本来の機能がありますから、経営者に万が一のことがあった場合には、保険金5000万円が支払われ、企業の維持や事業承継に役立てることができます。
なお、会社が解約返戻金を受け取った場合には雑収入になります。また、生命保険ですので、被保険者の体況によっては、保険料が高くなる場合があります。
生命保険には、この他にも、会社の財務状況や将来のリスクに備えて、企業経営に役に立つ機能があります。