米長哲学をご存じですか?

中小企業診断士 小野 靖

米長哲学をご存知ですか? 知っておられる方は恐らく将棋がご趣味ではないでしょうか。米長哲学とは、日本将棋連盟会長の米長邦雄が唱えている勝負哲学です。

プロの棋士として、将棋の対局にどのように臨むべきか-米長哲学は将棋、もしくは勝負に対する心構えなので、企業経営にそのままあてはめることは難しいのですが、その精神を応用することは可能と思い、今回紹介させていただくことにしました。

「運はすべての人に平等にやってくる。そして人生には運の大きな波が何回かある。この大きな運を呼び込む勝負とは、必ずしもでかい勝負ではない。自分が負けても、自分の利害には大きな影響はないが、相手にとってはその勝敗が運命を左右しかねないほどの重要度がある。自分にとっては消化試合、相手にとっては重要度の高い勝負で必死に頑張ることで大きな運を呼び込むことができる」米長はこう言っています。

もう少し具体的にお話しましょう。ある将棋のリーグ戦最終局。米長は勝っても上のリーグに上がれませんし、負けても下のリーグに陥落することもありません。一方相手は勝てば上のリーグに上がれますが、負ければ、他の棋士が上がることになります。この日、米長は決死の覚悟で対局に臨み、形勢の悪い将棋を粘って逆転勝ちを納めます。その甲斐あって、米長は翌年、同じリーグで好成績を上げ、上のリーグ(A級と言って一番のハイクラス)に上がり、トップ棋士の道を歩み始めることとなるのです。

この米長哲学-現実にはどうやって企業経営にあてはめたら良いのでしょうか?そもそも企業経営に応用できるのでしょうか?私は普段の診断士生活では以下のように米長哲学を解釈し、実践しています。あるベンチャー企業の経営者から私が懇意にしている会社の社長の紹介を頼まれたとします。私自身、アポイントを取っても取らなくても、損も得もありません。アポイントが取れなくても私の仕事が減る訳ではありませんし、逆にアポイントが取れてベンチャー企業の仕事がうまく行っても顧問になるとか、そういう可能性もありません。しかし、ベンチャー企業の方は新製品の販売でそこの会社と連携できれば、飛躍的に業績を伸ばせるかもしれません。こうしたとき、私は一所懸命にアポイントを取るように心掛けています。ベンチャー企業の経営者にそれだけの運がかかっているとすれば、その仲立ちを頼まれた私にも相応の運がかかっていると思うからです。その方の運が拓けるならば、同様に私の運も拓ける、そう思うのです。

企業経営者の方も、時としてご自身が消化試合、相手が大勝負のような場面に遇うこともあるかと思いますが、ご自身なりに米長哲学を解釈して実践されてみてはいかがでしょうか。

さて、限られたスペースなので、かなり話を単純化いたしましたが、ご留意いただきたいことがあります。それは「実力」についてです。実力が全然ないのに、運やツキのことばかり考えていて、それに頼ろうとしても、成功するはずがないのは当然と米長も言っています。勝ちたいと思ったら、実力をつけることが第一。そのうえで、運やツキを掴むことを考えるべきなのです。企業であればたゆまぬ経営努力が大切です。中小企業診断士の私も日々の勉強は欠かせません。資格を取ったらそこで勉強はおしまいではないのです。本コラムで米長哲学に興味を惹かれた方は、是非、米長の著書「人間における勝負の研究(祥伝社)」をご一読されることをお勧めします。必ずや得るところがあると思います。

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