アベノミクス

高橋剛次

2012年11月の民主党から由民主党への政権交代後、世相の雰囲気が沈滞閉塞感から前進躍動へとの期待感が高まっています。民主党は決められない、何も実行できない、との政権運営に対しての批判に対して当時の民主党代表野田首相は「国政の大綱で合意したうえで、その運営については解散によって国民の審判を仰ごう」と党首対談で呼びかけました。解散までは民主党主導でしたが選挙戦に入ってからは世論のムードが反転、自民党が大胆な政策転換を打ち出して攻勢に転じ大勝しました。
安倍政権は経済重視対策としてアベノミクスを打ち出しました。アベノミクスノは3本の矢からなり第一の矢は「日本銀行の金融緩和」、第二の矢は「政府の財政出動」、第三の矢は「成長戦略」で、この3本の矢を矢継ぎ早に繰り出しました。このおかげでメガバンクの国債売却益は20%以上増加、株価は70%上昇、対ドル円相場は80円から102円へと22円の円安が進みました。この円安のお蔭で輸出メーカー等の営業利益は大幅に増加しています。成長分野ではすでに旅行業界で海外客が増加しています。さらに第4の矢としては教育、農業などで競争力を強化したいとしています。
安倍政権発足から半年で長いデフレスパイラルからの素早い脱却の歩みです。タクシーの運転手さんやスーパーの販売員さんなどが「アベノミクスのお蔭で売り上げが増えてきました」といい、明るいムードが漂っています。世相の明暗の一部を切り取り拡大強調するマスコミのアナウンスメント効果が先行しているきらいがありますが、国民に明るい明日を期待させることは政治の最重要責務であり、政権交代による自民党の大きな成果です。
物事には表と裏、光と影があります。今テレビや新聞などのマスコミでもてはやされているのは円安効果の恩恵を受けるメーカーや金融などの大企業が中心です。輸入品が中心のエネルギーや食品などは仕入れ価格が上がります。多くの中小企業は仕入れ価格のアップを販売価格に転嫁するのが難しい。消費税のアップと重なりダブルパンチです。また価格転嫁が認められるとしても大企業の業績が決算に反映されてからの半年または一年遅れになります。中小企業にはもうしばらくは厳しい経営環境が続きます。
安倍政権はインフレ景気好転により企業業績が回復し、雇用の増加や賃上げが実現できるとしていますが、経団連をはじめとして企業の経営者は業績を見極めたうえで対応を決めたいとの慎重姿勢です。一般家計には消費財の値上がりと消費税のアップが待ったなしで押し寄せてきます。収入が増えないのに好景気気分によって消費支出の財布の紐が緩むかは今後の消費者の購買行動を見なければわかりません。
安倍政権が目論むようにインフレによって経済が成長路線に乗るか財政膨張の付けで破綻するかは今後の舵取りを見ないと軽々には判断できません。経済の実質成長は新しいモノやサービスを生み出す需要創造の技術革新によりますが、この点についてはこれからの課題です。そしてこの分野については経済・産業界の創意工夫が主役であり、政治は脇役です。経済問題以外に国内問題では靖国神社、憲法改正、選挙制度などがあり、外交面では領土問題、歴史認識、円安誘導政策への各国の批判などの問題を抱えています。民主党政権当時とそのよって立つ国勢と基本政策は変わっておらず、今回の予算編成は民主党案以上に公共投資や防衛費等が増え、生活保護費等は減額されました。
政権の火種はこのように国内問題に限らず、外交上の国際問題もあります。安倍首相が得意だとする外交も親米の最右翼を自認するにもかかわらず親密度を深めているとはいえません。中国、ロシヤ、北朝鮮などの共産圏諸国とはそのタカ派姿勢から緊張感を高めています。沸騰しやすい世論はちょっとしたきっかけで冷め易く、安倍政権の行方とその評価は今後の問題です。
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