「お・も・て・な・し」の心で物造り
- 2014/1/1
- トピックス
中小企業診断士 猪野 保夫
昨年の新語・流行語大賞は「じぇ、じぇ、じぇ」「倍返し」「今でしょ」「お・も・て・な・し」と4つ選ばれました。この大賞はその年に話題となったニュースや人気のドラマ、バラエティ等から選ばれ12月初めに発表されます。例年は一つであることから4つから一つ選ぶとすれば何を選びますか、私が選ぶとすれば「お・も・て・な・し」を選びます。それはこの言葉は物造りの心と考えるからです。
「お・も・て・な・し」とは人に安心、感動を与えることと考えます。物造りの形である製品が人に安心、感動を与えられたら素晴らしいと考えます。安心、感動を与える製品はいかに造られるかを考えてみてください。造り手はそれを手にした人を思い浮かべ作っています。決して性能の良さだけが感動を与えるとは限りません。
こんな例があります。その会社は模型飛行機用のガソリンエンジンを造っています。お客様のほとんどがアメリカ人です。他社の製品と性能は大差がありません。価格は安くはありません。他社より少し高いのですがよく売れています。この会社のエンジンは見た目が美しいのです。エンジン本体の外周は普通鋳造肌のままですがこの会社は外周をひと手間かけ磨き上げています。最終検査では外観検査だけで始動しての性能検査はしていません。検査を終えたエンジンは化粧木箱に入れて出荷されます。ここで想像してください、そのアメリカ人は飛行機の本体は完成していて、あとはエンジンを付け大空にその飛行機が飛ぶのを想像しているとき、日本から美しい化粧木箱に入ったエンジンが届きます。きれいな木箱をワクワクする気持ちを抑え開けると輝き光るエンジンが現れます。しばらく手に取り何度も何度も眺めてからやおら飛行機に取り付けるでしょう。そこでそのエンジンはどこもかしこもきれいで試験運転をしていないことに気が付きます。少し不安を感じながら燃料を入れ点火プラグに電源をつなぎ手で始動させると、勢いよくプロペラが回り模型飛行機は軽快なエンジン音を響かせ、不安であった気持ちを蹴散らかせ大空に飛び上がるのです。この瞬間の感動はエンジンメーカーに絶対の信頼をおき2基目の注文につながることは容易に想像できます。
化粧木箱、エンジン外周の磨き上げは他社でもやろうとすればやれる内容です。しかし試運転しないでお客様に届けることは、すべての工程で品質保証ができていなければ不可能です。全工程で不良品は絶対に次工程に流さないという「次工程はお客様」という品質管理の古い格言を実践し次工程、お客様に安心、感動を与えているのです。
テレビで北陸の名旅館「加賀屋」が紹介されます。そこの女将の従業員に対する教育・訓練は並大抵の努力ではありません。その努力があればこそ来館されるすべてのお客様に安心、感動を与えていると思います。物造りも加賀屋のような教育・訓練が行われ「お・も・て・な・し」の心が全員に行き届き製品がお客様に安心、感動を与えることができれば会社の未来が見えてくるような気がします。