日本再興戦略がもたらす「雇用制度改革・人材力の強化」
- 2014/4/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 竹尾 伸一
今月から平成26年度となりますが、今年度は日本の労働法制が大きく方向性が変わる可能性があります。安部政権は、平成25年6月に「日本再興戦略」によって、政府の新成長戦略を明らかにしました。その際、「ヒト、モノ、カネを活性化する」重要なアクションプラン項目の1つとして、「雇用制度改革・人材力の強化」を挙げました。「人材こそが我が国の最大の資源であるという認識に立って、働き手の数(量)の確保と労働生産性(質)の向上の実現に向けた思い切った政策を、その目標・期限とともに具体化する必要がある」としています。
その政策として、「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換(失業なき労働移動の実現)」を挙げています。これまで、リーマンショック以降の雇用情勢の悪化に対し雇用維持型の手厚い政策が行われてきました。これを改め、個人が円滑に転職等を行えるよう能力開発支援を含めた労働移動型の政策に大胆に転換していく、というものです。
具体的には、労働移動支援助成金(事業規模縮小のため労働者が離職せざるを得ない事業所における再就職援助)への資金シフトや、非正規雇用の若者等がキャリアアップ・キャリアチェンジできるよう教育訓練給付の大幅な拡充などが提言されています。
さらに、雇用制度改革・人材力の強化のための政策として「多様な働き方の実現」を挙げています。「個人が、それぞれのライフスタイルや希望に応じて、社会での活躍の場を見出せるよう、柔軟で多様な働き方が可能となる制度見直し等を進める」ことになります。
具体的には、労働者派遣法の改正(派遣労働者を活用できる期間や職種を広げた上で、労働者のキャリアアップも図っていく)や、「多元的で安心できる働き方」の導入促進として、職務・勤務地・労働時間が特定されている正社員(いわゆるジョブ型正社員)の導入促進、などを盛り込んでいます。
今後これらの政策が進んでいく中で、予想されることがいくつかあります。
まず、「失業なき労働移動」に備え、労働者の能力開発へ積極的な取り組みが期待される、ということです。それなくして失業なき労働移動は実現できず、また労働生産性(質)の向上も課題であるためです。
そして、企業内において派遣労働者への今後の対応方法やジョブ型正社員等新たな雇用形態へのルール整備、それらに伴う雇用契約・就業規則の見直しなど、変化に対応した適切な労務管理が必要になってくることも、予想されます。
これらを考慮したときに、今後は従業員のキャリアを形成していく中長期的な教育訓練の必要性が高まってくると言えます。教育訓練給付金の大幅拡大など、非正規雇用労働者を中心としたキャリアアップ・キャリアチェンジへの支援体制が充実し、派遣労働者やジョブ型正社員等が中長期的なキャリア形成を図っていくことが今後の課題となってくるからです。そのために、今後は従業員教育に関わる助成金等の情報にも注意し、それらをうまく活用して対応していくことも必要になってきます。
また、多様な働き方の拡充に伴う労務管理上の対策についても、今後は法改正情報等にも注意しつつ、従業員トラブル等を未然に回避するため、早めに動いて対応していくことが求められるでしょう。