事業承継を考える

中小企業診断士 昌子弘明

中小企業の事業承継を円滑に進めるための経営承継円滑化法が平成20年10月から施行されたことに伴い、相続税や贈与税の納税猶予など承継時の税負担を軽減させる税制が創設されています。また、この事業承継税制は平成25年度の改正で適用要件等の見直しが決定し、来年の1月1日から新制度が施行されることになります。このような背景もあることから経営者と事業承継について話をする機会が増えているように思います。事業承継についての話は経営者とさまざまな話をしていく中で問題点が見えてくることが多く、はじめは公的支援制度活用や従業員教育等についての相談など一見すると事業承継とは関連がないような会話から自然と事業承継の相談になっていることがあります。

中小・中堅企業における事業承継の実態調査(平成26年9月_商工総合研究所調べ)では、事業承継の準備状況「十分に準備している4.8%」、「ある程度準備している39.2%」と全体の44%であり、半数以上の企業が事業承継に備えた対策を講じていない状況のようです。また、事業承継に関する相談では「自社株の評価」、「相続税、贈与税」など主に税金に関わる内容が多いというような調査結果となっています。その他、中小企業が抱える事業承継の問題としては「後継者」、「個人保証」などさまざまですが、なるべく早い段階で対策を講じることで円滑な事業承継ができると思われます。

来年から施行される事業承継税制の改正点は、①親族外承継の対象化、②雇用8割維持の5年平均化、③納税猶予打ち切りリスクの緩和、④贈与税に係る役員退任要件の緩和、⑤適用手続の簡素化、⑥債務控除方式の変更が挙げられますが、この改正により後継者選定や税金等の負担軽減が期待されるところです。また、中小企業庁発表の「事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会(平成26年7月中間報告)」では、円滑な事業承継への対策として、「本制度の普及」、「事業用資産等の財産移転や債権債務の調整に関するガイドライン策定」、「廃業後の生活資金確保への支援」、「個人事業主の事業承継等の円滑化」「納税猶予制度や非上場株式評価の見直し」等が検討されています。今後、大量の経営者交代が想定される中で、如何にして事業承継を円滑に進めるのかは日本経済にとっても重要な課題ではないでしょうか。

私は、中小企業診断士として円滑な事業承継に向けた支援に取り組んでいます。また、経営者が保有もしくは利用している不動産に関する相談にも対応しているため、事業承継と並行して不動産運用についても対策を検討することが多々あります。国税庁発表の「相続財産の金額の構成比(平成24年)」では、相続財産に占める不動産(土地・建物)の割合は54.6%であり相続財産の過半数を占めていることから、事業承継対策から不動産運用の話になるのも自然なのかもしれません。最近の相談では、「施策活用→事業承継対策→不動産運用→相続対策」と、まるで人生相談のようになったこともありました。

事業承継対策は、主に中小企業の事業継続や税負担軽減に向けた取り組みが重要視されています。それに対して相続対策は、中小企業経営者を中心とした人間関係や日常生活の円満までを視野に入れた上での、税負担軽減や納税資金確保等への取り組みが重要であるように感じています。

事業承継や相続の話は当事者から切り出すことに抵抗もあるため問題が表面化しにくいという側面があります。そのため、第三者という立場から現状を把握して問題点の顕在化に務めることが一つの責務のように考えています。

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