少人数私募債発行のおすすめ

中小企業診断士  伊藤哲男

一昨年来の日銀による異次元の金融緩和政策の遂行により、長期金利は史上最低の水準にあり中小企業向けの借入金利も下がって来ています。中小企業の金融状況は、全体的には1~2年前と比較して好転してきているようです。このように金融状況が落ち着いている今こそ、これからの資金調達についてどうしていくべきか考えていく良い機会ではないでしょうか?

ご存知のように資金調達手段には、直接金融と間接金融があります。直接金融とは、株式、社債、等の発行により、資金の出し手と借り手の間に銀行等が介在しない資金調達で、間接金融はその逆に銀行等第三者が介在する資金調達方法です。近年大企業においては直接金融を利用して多様に資金調達を活用するようになって来ていますが、中小企業においては調達と云えば銀行から借入れるものという観念が強く働いて、その結果間接金融に依存する状態が継続しています。特に社債等は大企業が発行するもので、自分たちの企業とは無関係だとお思いの経営者の方もいらっしゃるかと思います。そこで今回は中小企業で使い勝手の良い資金調達の多様化と拡充の手段である「少人数私募債」をご紹介したいと思います。

今から10年ほど前には「まちの起業家等資金調達マッチングモデル事業」として中小企業庁の施策として各地の商工会で推進され、自治体によっては利息の補助を行う所もありました。

しかしその後のリーマンショックの発生で、金融事情は大幅に悪化、中小企業に対し金融円滑化法の制定が必要な程の状況となり直接金融の強化や少人数私募債は中小企業施策から外れて、経営者の方の認知度も低下して行ってしまいました。

しかし前述したように金融環境が好転している現在の経済状況下こそ、中小企業にとって再度少人数私募債を始め直接金融強化を進める好機ではないかと考えます。

私募債の発行要件とメリットは以下に記しますが、詳しくは全国商工連合会の「中小企業のための直接金融による資金調達マニュアル」に詳しく記載されているのでご覧頂きたいと思います。   少人数私募債の発行要件は概略以下のようになっています。                      1.発行出来るのは株式会社で、募集先は縁故者50人未満、発行総数も50口未満であること。縁故者とは親族・従業員・友知人・取引先等経営者の人脈で顔と名前が一致する範囲の人を言います。

2.募集総額が1億円未満で、1口の最低発行価額が発行総額を50で割った額を上回ること。(上回ると社債管理会社を置かなくても良いという利点があります)例えば発行総額98百万円、1口の価額を2百万円にすれば募集人員49名で要件をクリアできるということになります。             また発行のメリットとしては、経営者の方の体験の感想等から、次のことが言えると思います。

1.発行時に担保や保証人が必要とされず、月々の返済が不要で長期間にわたり資金繰りが大幅に向上し、その結果銀行とのやり取り等の事務作業から解放され本来の経営に専念できます。

2.事業計画を立案する必要性が生じ、会社の理念・事業目的・方向性が明確になる効果があります。

3.経営情報や財務内容を関係者に公開して行くことで、経営者としての説明責任や経営のオープン化を強く認識するようになり、経営に対する責任感や緊張感が増し結果としてプラスになります。

4.役員や従業員が引受けた場合、経営参加意識が高まり全社で利益志向マインドが強まります。

5.社債引受けユーザーへ商品やサービスをプレミアムとして提供し、利息の補強にしたりすると共に、会員 システムを導入しファン層の拡充に結び付けることが出来ます。

6.貸借対照表に社債の項目が乗るインパクトが大きいと共に、3~5の項目の経営体質の強化の実現に銀行からの評価も高まり、好循環の資金調達も可能となります。

概要は以上のようですが、こうして見てくると資金的なメリットは勿論ですが、私募債発行を通して経営体質の変化・向上が大きく図られるというポイントは大変重要かと思います。

今後、中長期の資金計画の検討の際には是非「少人数私募債」も含めた検討をお薦め致します。

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