経営に欠かせない採用・育成戦略(採用難時代に備えて)
- 2015/7/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 栗原裕則
人手不足の声を聞くことは珍しくなくなりました。特にITやゼネコン、飲食業界等は深刻な状況のところも多く、リーマンショック、震災後の失業率の高さが嘘のように雇用環境が変わりました。厚生労働省の毎月の完全失業率のデータは、震災直後の平成23年度の5%前後から今は3.5%を下回り、有効求人倍率は昨年度から1.0倍を常時超え1.2倍を超える月もあります。(実態として、大手企業がハローワーク等の公共機関に通常の求人登録することは少なく、厚生労働省の統計以外の求人も多いことが想定できます。)
経営において「人・もの・金」と人は最重要課題とされていますが実際、経理と違い中小企業で人事担当が存在することは少なく、経営者等が兼任、又はアウトソーシングに頼っています。最近、採用にお困りの経営者にお会いして感じることは、「人さえ増えれば仕事はあるが採用できなくて売上・収益が上がらない。」と機会損失のような状態である一方で、30歳代前半までの若くて経験のある優秀な人材を要望されることが多いことです。
企業経営において外部環境を踏まえて戦略を考えるものです。採用市場では中途採用に活発な大手企業は、若手の即戦力の採用に注力する傾向は強いのが実状です。中小も大手企業と採用に求める需要が同じ傾向があり、若手の経験者人材の超・売り手市場は自然に起こっています。一般的に40歳代の経験者人材と比べて30歳代前半までの経験者人材は希少です。さらに団塊ジュニア世代は40歳を過ぎており35歳以下の人口が相対的に少なく希少性がさらに高まっています。長年の冬の時代を乗り越えつつある経済状況下で知名度のない中小企業にとって採用は益々厳しくなることが予想されます。むしろ若手の優秀な人材が中小から大手企業へ移動し易くなり、定着も容易でないリスクさえ考えられます。
新卒の就職活動は、応募企業の情報収集とともに、自己を客観的に分析し、強み、価値観、したいことを分かりやすく伝えられるように整理できる書類フォーマットになりました。知名度がない中小企業においても、強み、価値観、ビジョンの明確化、そして求める人材像を具体化し、どこへどのようにアピールするか等の採用戦略が企業の競争力に影響するといえます。それが出来ている大手企業の採用と大きく違いの出るところです。
かつてリクルートの創世記、創業者の江副氏は大卒の採用が思うようにいかない為、当時4大卒の女性が就職難であることに着眼し、優秀な4大卒の女性の採用を積極的に行ったことを後々語られています。採用戦略に成功した会社の一例です。プロスポーツにおいても人材の獲得・育成のノウハウのあるチームが強い時代です。テニス界で大躍進した錦織圭氏は、日本人ですが、育てたのは一貫した育成のプログラムを持つ米国のスポーツ選手養成機関であり、このような優れた育成のノウハウのあるところに才能ある人材が集まるのはスポーツの世界だけではないでしょう。
長年の少子化の影響で現役人口が減少傾向にある採用難時代には、採用と育成戦略に優れ、社員の成長・自己実現支援で社員が定着する会社が、経営基盤を強化し他社と差別化ができる。まさに経営は人の時代になったと思われます。社員の育成・成長支援に厚生労働省の各種助成金を活用されることもお勧めします。