木づかいに気づかい
- 2015/10/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 井田義人
国産の木材があまり使われていません。
山が荒れている。そんな話を聞いたことがありませんか?
木づかい運動をご存じでしょうか。林野庁が進めている国産材の利用促進の取組みです。
「木づかい」とは、「暮らしに国産材の製品をどんどん取り入れて森を育てるエコ活動であり、木を使うことから、すべてが始まる」というものです。CO2の吸収や国土を災害から守るために、国産材を使って森を育てる大切さを訴え、2005年度から国産材の利用促進運動としてPR活動が行われており、毎年10月は「木づかい推進月間」とされています。
そこで、今月の「診断士の視点」では、「木づかい」の必要性と可能性について考えます。
人工造林が始まったとされる室町時代以降、大切に育てられてきた日本中のスギやヒノキの人工林は、戦後復興期の建材需要を賄うために軒並み伐採され、日本の山林は一時期ハゲ山状態となりました。そこには多くの苗木が植えられ、今、その木たちは樹齢50年を超えるすばらしい成木に育っています。まさに使い時を迎えているのです。 しかし、それらの成木の多くは、木材や製紙材料として使われる見込みがないまま放置される、あるいはバイオマス発電の燃料として一瞬で燃え尽きてしまうのかもしれません。
高度成長期、逼迫する木材需要を満たすため、木材の輸入が自由化され、安い輸入材が国内市場に大量に流入しました。その結果、日本の林業は急速に衰退してしまったのです。さらにその後、木材輸入の形態は、丸太から製材加工されたプレカット材に変化し、製材所をはじめとする木工業はもちろん、匠の技で勝負をしてきた大工さんの活躍の場も奪っていきました。
一方、1997年に採択された京都議定書に定められた日本が公約したCO2削減量の約3分の2は、豊かな森林資源の吸収で実現する目標となっています。しかし、現在日本の山に多く生きる樹齢50~60年を超えた「老木」は、成長期に比べてCO2の吸収量が減少することが知られており、森林のCO2吸収機能を維持するためには、成木を利用し、新たに若い木を育ててゆく必要があるのです。
また、森林が持つ重要な機能に「保水機能」があります。森林の手入れが疎かになると、森の木の根元には陽の光が届かなくなり、所謂下草が生えなくなります。すると、斜面の土は水に削られて流れてしまうため、山が水を貯える力が低下するだけでなく、土石流の発生や、上流に降った雨が一気に流れ下ることによる下流域の河川決壊の一因ともなり得るのです。
木づかい運動のウェブサイトでは「植える、育てる、収穫する、上手に使うというサイクルがCO2をたっぷり吸収する元気な森をつくる」とうたっています。 このサイクルに、「使い終わった木材を廃棄・焼却するプロセス」を組込みむと、カーボンニュートラルという考え方にいたります。木材を燃焼させた時に排出されるCO2は、もともと樹木が光合成で吸収したCO2が大気中に戻るだけで、環境には影響しないという考え方です。川崎にも、大規模なバイオマス発電所が稼働していますが、そこから排出されるCO2は、50年の時を経て大気に戻ってきた少し懐かしいCO2といえるかもしれません。
それでは、私たち中小事業者にできることはあるのでしょうか。
現在、建材や家具、木工製品などを除けば、工業材料としての木材の存在感は必ずしも大きくはありません。湿度などの外的環境の影響を受けやすく、材料としての均質性の管理も難しいため、金属や樹脂材料のようには使いにくいというのが現実です。
しかし、木材は、歴史的木造建造物に見られるように、自然環境と調和することで極めて長寿命な建材であり、湿度による伸縮性能が利用できる機能性材料でもあります。また、最近ではスギの香り物質が、人体の自律神経活動など好影響を与える研究結果なども多く報告されているなど、その可能性は私たちの想像を超えているかもしれません。
時間を巻き戻し、日本の森林と木材産業のかつての姿を取り戻すことは不可能です。ですが、一人でも多くの生活者や事業者が、木の良さをあらためて知ること、そして使うための工夫や努力が、日本の森を守り、地球環境を未来につなぐために求められているのではないでしょうか。また、そのことは新たなビジネスチャンスを拓くきっかけになるかもしれません。
木材を使ってみたい、林業地にビジネスパートナーを探してみたい。秋の夜長、そんな夢の入口ものぞいてみてはいかがでしょうか? ご興味がありましたら、是非私たちにもお声掛けください。