中小ものづくり企業における営業開拓手段としての展示会の活用

福田 和彦

国内の中小ものづくり企業を取り巻く環境は、今さら言うまでもなく大きな変動にさらされ続けてきました。古くはバブル経済崩壊の頃から始まった、国内大手製造業による中国など海外への生産移管の動きがあり、国内に残る仕事量(特に生産ロットの大きいもの)が減り続けたということがありました。また、リーマンショックによる急激な景気の冷え込みにより受注が急減する事態となり、そのダメージから立ち直ろうと悪戦苦闘していたタイミングで東日本大震災に見舞われました(地震と言えば熊本の被害も落ちついてはおらず予断を許しません)。大手企業でも大変な思いを重ねてきたのに、企業体力に劣る中小企業ではまさに厳しい状況の連続だったといえます。景気の悪化に見舞われれば受注の減少に苦しみ、少し景気が持ち直してきたかと期待すれば突然の災害でダメージを負うということで、なかなか気の休まる暇がありません。

特に中小ものづくり企業にとって大きな変化といえるのは、取引先(得意先)との関係性の変化だったろうと考えます。取引構造をみても、バブル以前の時代を思い返してみますと、まず頂点に大手製造業者の組立工場があり、その下に一次下請けと呼ばれる企業があり、そこから二次下請け、三次下請け、四次、五次と多くの企業が連なり、まるでピラミッドのような多数の取引企業からなる集合体が形成されていました。当時の国内の中小ものづくり企業の多くは、特定の取引先を親会社と定め、そこからもらう仕事を黙々とこなすことで経営が成り立っていたわけです。その時代の中小ものづくり企業におきましては、特に一次下請けにおいては『下請けの囲い込み』という仕組み(特定の取引先を親会社と定め、他所の仕事をやらないかわりに仕事量を保証してもらう)の中で生きてきたわけです。しかしバブル崩壊後は、この仕組みが崩れる事例が多くみられました。その過程で多くの下請け型中小ものづくり企業が痛感しましたのは、自らの営業開拓力の低さでした。いままで他所の大手企業に足繁く通い、そこと取引開始するという経験が少なかったので、自社の技術力を必要としてくれる客先を探しだし、そこに営業を仕掛けるノウハウが乏しかったためです。

このように新しい取引先を開拓しようと訪問営業に注力することを『攻めの営業』と定義しますと、その反対に客先から自社に興味を持ってもらい来てもらおうという考えが出てきました。その役に立つような営業ツールも普及してまいりまして、その一例がホームページになります。客先から自社ホームページを探してもらうことから始まる『待ちの営業』であり、攻めの営業に対して余計な手間がかかりません。しかし一方で問題点もあり、閲覧者を選べないため望む顧客層が見に来てくれているとは限らないということがありました。

そのような背景があるなかで、新しい営業開拓手法のひとつとして、『展示会』に出展し自社技術を必要とする企業からのアプローチを待つという方法が注目されております。筆者としましても、新しい取引先を確保し売り上げを増やしたという例を聞く機会が増えており、この方法を推奨しております。展示会出展の際に、以下のような留意点があることを知っておきたいです。

  1. 最初から出展料の高い展示会に出るのは避ける。最初は公的機関が主催するような安価で出展できる展示会を選ぶ、または出展企業を対象とする補助金を活用して出費を抑える。それにより、最初のうちは失敗をしがちであっても、顧客のニーズを把握したり興味を持たれる展示方法を会得していく。
  2. 展示会の種類をよく吟味する。自社に向いている展示会か否かをよく見極める。どのような企業が参加しているのか、自社がそこに参加して他社と競争して勝ち残れるかを客観的に予想する。また主催者がどのように宣伝し、どんな客層を呼び込もうとしているかを観察する。
  3. 展示を通して何をアピールするべきかを明確にする。あれもこれもと展示しても情報過多かつ散漫になり逆効果になる。展示会の種類ごとにどのような顧客層が集まるかを把握し、その客層にアピールしやすい展示方法を考える。
  4. 事前の宣伝を怠らない。既存の取引先や知り合いの企業などにDMを送ったりして来場を乞う。アフターフォローを忘れない。会場でもらった名刺は無駄にしない、有望な先には忘れられる前に訪問するなど素早く対応する。
  5. 出展すると決めたら尻込みしない。自社が現在まで生き延びてこられたのは偶然ではない。何か世の中から必要とされる価値があってこそ生き延びたのだから、それが何かを徹底的に自問し、その価値を世に問うつもりで全力で取り組んでみる。

川崎市産業振興財団では経営のお悩みに応える窓口相談を実施しております。筆者は、以下の日時に担当いたします。6/10(金)、6/17(金)、7/8(金)、7/15(金)(いずれも13:30~16:30)。普段は中小ものづくり企業様からご相談を受けることが多いですが、幅広く対応するよう心がけておりますので、お気軽においでいただければと思っております。

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