採用に強い会社は、育成・定着にも強い
- 2016/8/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 栗原 裕則
人材不足、採用難の時代へ
1年前に比べて、日経平均株価は7月25日時点で1万6千円台と約4千円下がっています。しかし厚生労働省発表の有効求人倍率は、1.3倍台と1.2倍台だった1年前よりも上昇傾向となり、人材不足はより深刻となっています。今回は採用に比較的強い、弱い企業の特徴、傾向について整理し考察してみます。
採用が好調な企業の傾向
採用が上手くいっていると思われる企業からご相談を頂くことがあります。それは採用難の流れを感じ、これからに備えての相談です。このような流れに備える企業に共通する傾向として、職場環境、育成方法等も詳細まで考えており人材の定着も採用も好調です。給与が特別高いということではありません。
一方で定着が悪く、採用に苦戦されている業界や企業の場合、退職を希望される求職者からの話を聞く限り、労働環境、育成方法に改善の必要性を感じます。時々経営者から年齢が若く経験のある希望に叶う人材には、高い給与条件を用意しますと・・。
しかし給与のアップやポジション等の機会を与えることは、モチベーションのアップに繋がりますが、人間関係も含めて働きやすい労働環境や育成方法等の支援面の問題点は、強い不満に繋がり給与のアップでは解決しないものです。特に最近の若年層の退職理由は、労働環境への強い不満が圧倒的です。
既卒3年以内の離職者増加の背景・要因
振り返れば、生産性向上、成果主義等の流れで最も影響を受けてきたのは、若年層ではなかったかと思います。例えば中間管理職がプレイングマネジャー化されたように、新人の指導担当者は、限られた時間で効率よく自己の仕事を処理し、同時に手間と配慮の必要な新人の指導・育成も求められています。特に離職率の高い企業の場合、多くの仕事を複数抱えたベテラン社員が担当する傾向が目立っています。
これは立場の弱い新人へ配慮の欠如が考えられます。若年層の新人は、まず仕事を覚えるだけでなく経験のない新しい環境への適応し、職場内コミュニケーション、人間関係を1から築いていく必要があります。業務効率化を意識し、新人への理解、配慮に欠けることが、既卒3年以内の離職率の高さに繋がっている要因の1つと考えられます。
若年層を取り巻く環境
今の若年層は、情報社会で育った影響で行動・決断する前に多くの情報を収集し、見えないとなかなか行動しない傾向があります。当然、学生は就職活動時にネットでの情報収集だけでなく大学の先輩達からの情報収集の機会が与えられています。もし学生から敬遠される傾向の業界、企業があるとすれば、そのような情報がネットや口コミで蔓延していることが予想されます。
新人の育成は、新しい技術の開発・育成同様、飛行機の離陸のように労力も掛かり、時間と手間が掛かります。しかし人材採用難時代の到来を考えれば、これを怠ると企業の中長期的な成果への影響が考えられます。
また今の若年層は、単に求人増や人口構成の影響だけでなく、人材紹介業界の拡大成長の影響で転職し易い情報環境が整っています。折角採用できても定着しなければ、また募集と悪循環に陥ります。
これからの採用に求められること
採用に強くなることは、労働環境整備と自立化やキャリア支援等の充実化により、新人のやる気、成果、成長促進に繋げ、従業員満足感を高めて定着に強くなることです。そして新人には、出来るだけ新人時代の記憶が残り新人の立場が理解できる年齢の近い相談役やサポート役をつけることです。さらに早い段階で達成感、小さな成功体験で自信を付けさせる工夫や配慮が、安心感、やる気を刺激し定着にも繋がる傾向があります。
当然このような成功事例は“好循環“となり採用戦略やアピールにも説得性があるものになります。このような”好循環“を生み出す企業風土やマネジメントになっているかを見直し配慮できる企業が、採用にも強みを発揮できるようになっています。