「財務戦略」について
- 2016/10/1
- トピックス
檜山敦子
【はじめに】
企業の経営資源には「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つがありますが、とりわけ中小企業や創業間もないベンチャーにとって「カネ」は最も重要な問題です。本稿では「財務戦略」についてポイントをまとめてみます。
【財務戦略の重要性】
財務戦略とは、「いつ/いつまでに」「いくら」「何の目的で」「どこから」資金調達するか、さらに、資金調達後の「資金繰り」「返済」「調達先との関係」の一連も含めて考えることです。企業にとって、日々の運転資金、設備投資、納税資金など、創業から成長・成熟に至るいずれの過程でも様々なカネが必要です。従って、財務戦略の立案は欠かせません。
【まずは事業計画から】
言うまでもなく、資金は事業計画に基づき調達されるべきものです。特に事業実績のない創業者の場合、財務データや信用情報がないため、金融機関への事業計画書提出は必須となります。また創業者に限らず、そして金融機関からの借り入れ目的がたとえなくても、自らが何を成すべきかを認識し、出資者や取引先の理解や協力を得るために、事業計画はどの企業でも策定されるべきものでしょう。
事業計画の策定により「いつ/いつまでに」「いくら」「何の目的で」は概ね明らかになります。
【どこから調達するか】
資金調達には、融資、補助金・助成金、社債発行、ベンチャーキャピタルからの直接金融など様々な手法が考えられますが、最も実行可能性が高いのは融資と言えるでしょう。自社の現況に応じた金融機関の選択が求められます。
(1)民間金融機関
①メガバンク
融資限度額が大きく、パッケージ化された金融商品が多いのが特徴。格付による融資判断が行われます。好業績企業に対しては比較的低利、かつ融資実行が早い傾向があります。
②地銀・第二地銀
特定の地域に根づいた営業を行っており、地域にとって重要な事業・企業である場合には、業績不振でも支援を継続してくれる点に特徴があります。
③信用金庫・信用組合
メガバンクや地銀に比べ資金力は小さく、金利も高めである反面、地域密着のきめ細かい支援が期待できます。
(2)政府系金融機関
①日本政策金融公庫
創業、業績不振など、民間金融機関が扱いにくい企業の融資を担います。低利、無担保など条件が有利な一方、厳しいチェックが伴います。
②商工組合中央金庫
日本政策金融公庫より融資限度額が大きいのが特徴です。組合員向け融資の建付けなので、商工組合の会員になる必要があります。
(3)制度融資
各都道府県や市町村等の自治体によるサポートです。金利、保証料、返済期間など、民間金融機関より優遇される場合があります。自治体ごとに制度内容が異なるので、HPやパンフレットなどで確認が必要です。
【財務戦略上のチェック項目】
(1)資金調達の選択肢を複数持つ
最も現実的なのは上述の融資ですが、その他「出資」「少人数私募債」「ファイナンスリース」などの手段もあります。
(2)想定した資金調達が出来なかった場合の代替案を持つ
信金がダメなら公庫、公庫がダメなら自己資金、と代替案を持っている方が、結果的に金融機関も貸し易い様です。
(3)妥当な借入金額を算出する
債務償還年数を10年とした場合の計算式はざっくり下記の通りです:
要返済額=借入金-(運転資金+現預金)
FCF(現金増加額)=経常利益+減価償却
要返済額÷FCF<10
借入上限=FCF×10(年)
(4)3カ月先までの資金繰り表を作る
表にすると、業況のモニタリングが容易になり、先んじて打ち手を考えることが出来ます。
(5)必要資金を減らす努力と試行錯誤をする
「資金が足りない→じゃ、借りよう!」と安易に考えてはいけません。
(6)調達先に対して適時、適切な報告をする
当然ながら、金融機関は「返済の確実性」を重視しています。決算報告書を持参して定期訪問するなど、信頼関係の構築に努めることが肝要です。
【おわりに】
財務戦略、中でも資金調達は企業経営上の最重要課題と言っても過言ではありません。特に創業・起業を検討中の人にとって「資金不足」は最大の阻害要因になっています。また晴れて創業出来ても、黒字基調になるまでは平均6.3ヵ月を要します(日本政策金融公庫「2013年度新規開業実態調査」)。
本年7月には新たに「中小企業等経営強化法」は、経済社会情勢の変化に前向きに対応する中小企業・小規模事業者に向けて施行されました。製造業、卸・小売業など計11分野の「事業分野別指針」に沿って自社の「経営力向上計画」を作成→認定されると、固定資産の軽減や金融支援(低利融資、債務保証等)の特例措置が受けられるというものです。
この他にも各種支援メニューは充実しています。
上手に活用して財務体力を養い、事業を高い成長軌道に乗せたいものです