「2017年問題」と事業承継ガイドライン
- 2017/2/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 牧村 博一
日本の中小企業が直面している「2017年問題」
日本経済において、雇用の約7割を占めている中小企業。その中小企業が現在直面しているのが「2017年問題」です。人口の多い1947年~1949年生まれのいわゆる団塊の世代が今年2017年に70歳に到達します。
現在既に、企業経営者の高齢化が進んで来ており、2014年で、企業経営者の22.5%は70代以上となっています(東京商工リサーチ、「2014年全国社長の年齢調査」)。5人に1人が70代以上の社長ということになります。今年2017年以降は、その割合がさらに急激に増えていくことが予想されます。
調査では、経営者が70歳以上の中小企業の約7割において、経常利益が減少しており、赤字に転落してしまう企業も少なくありません(2012年11月中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」、(株)野村総合研究所)。
企業の休廃業や解散は過去最多に
このような状況の中、2016年に休業や廃止したり解散したりした企業は、2万9500社にのぼり、過去最多となる見通しとなったとの報道がありました(日経新聞、2017年1月14日朝刊)。一方、債務超過で債務の支払い不能に陥った企業の倒産件数は、1990年の6,488件以来の26年振りの低水準で、リーマンショックが発生した2008年(15,646件)の半分程度まで減少しています。倒産が減る一方で休廃業が増えている現状にあります。休廃業や解散企業は、いわゆる「資産超過」の企業ですので、黒字の企業も多く含まれています。
その休廃業の理由は高齢化です。企業経営者が廃業を決断する理由の一番多いものが、「経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題」であり、約半数の48.3%にのぼっています(中小企業庁委託「小規模企業の廃業に関する実態調査」)。
この休廃業による雇用の喪失は、20万~30万人にのぼるとされています。そして、中小企業が長年築き上げてきた日本の技術が失われていくのです。実際に廃業予定企業であっても、3割の経営者が、同業他社よりも良い業績を上げていると回答し、今後10年間の将来性についても4割の経営者が少なくとも現状維持は可能と回答しています。事業承継が行われなければ、企業が維持している雇⽤や技術、ノウハウが失われてしまうことになります(2016年2⽉ 日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」)。
団塊世代の企業経営者が70歳を迎え始める今年、2017年以降、休廃業が急増するとみられているのです。これが「2017年問題」です。
事業承継における最大の課題は後継者問題
日本経済を支える中小企業の雇用や技術の喪失といった観点から、近年、事業承継問題がクローズアップされています。
事業承継の中でも最大の課題は経営者の後継者育成になります。
事業承継の準備期間は、一般的に3~10年間必要といわれています。しかしながらアンケートでは、60歳代で6割、70歳代で5割、80歳代でも4割の中小企業が事業承継の準備ができていないと回答しています((株)日本政策金融公庫「中小企業の事業承継」)。多くの中小企業では後継者が決まらないまま経営を続けているのが現状です。事業承継がスムーズにいっていない状況を示唆しています。背景にあるのは、後継者をめぐる問題です。
実際に、60歳以上の経営者のうち、50%超が廃業を予定しており、特に個⼈事業者においては、約7割が「自分の代で事業をやめるつもりである」と回答しています。廃業の理由としては、「当初から自分の代でやめようと思っていた」が38.2%で最も多く、「事業に将来性がない」が27.9%で続きます。また、「子供に継ぐ意思がない」、「子供がいない」、「適当な後継者が⾒つからない」という後継者難を理由とする廃業が合計で28.6%を占めています(2016年2⽉ 日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」)。
今年、2017年には団塊世代の中小企業経営者が70歳を迎えるため、多くの中小企業が事業承継問題に対しての決断を迫られることになります。
事業承継ガイドラインの策定
中小企業庁は、このような現状の下、昨年12月5日に、円滑な事業承継の促進を通じた中小企業の事業活性化を図るため、事業承継に向けた早期・計画的な準備の重要性や課題への対応策、事業承継支援体制の強化の方向性等について取りまとめた「事業承継ガイドライン」を策定しました。
このガイドラインでは、事業承継に向けた早期かつ計画的な準備への着手を促すツールとして、事業承継診断が紹介されています。この診断により、事業承継の準備状況等を簡易チェックし、診断後には現状を把握した上で対策の方向性を検討し、診断結果等を踏まえて事業承継に向けた準備を開始できるとしています。
また、事業承継に向けて以下の5つのステップを提示しています。
【ステップ1】事業承継に向けた準備の必要性の認識
(事業承継に向けて早期・計画的な準備着手を促す「事業承継診断」や、支援機関と経営者の間の事業承継に関する対話の促進等)
【ステップ2】経営状況・経営課題等の把握(見える化)
(会計要領等のツールを活用しながら、経営状況等を見える化することを通じ、課題に対する早期対応)
【ステップ3】事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
(現経営者が将来の事業承継を⾒据え、本業の競争⼒強化等の経営改善を⾏うことで、後継者が後を継ぎたくなるような経営状態への引き上げ)
【ステップ4】親族内・従業員承継事業の場合は事業承継計画策定、社外への引継ぎの場合はマッチング実施
【ステップ5】事業承継、M&A等の実行
上記ステップ1~3をプレ承継と位置づけ、さらにポスト事業承継として「成長・発展に向けた後継者による新たな視点での事業の見直し等への挑戦の促進」を位置づけています。
そして、最後に取組の促進体制として、地域における事業承継を支援する体制の強化を謳っています。
本ガイドラインをもとに、一つでも多くの中小企業が、蓄積されたノウハウや技術といった価値を次世代に承継し、世代交代によりさらなる活性化を実現していくことを願っています。
ガイドラインに内容については、今後、セミナーにおいて解説させていただきます。ご興味のある方は、ぜひご参加いただければと存じます。