社会福祉法の改正と社会福祉法人改革
- 2017/10/1
- トピックス
(1)平成28年度に社会福祉法の大改正が行われ、この29年4月1日より施行されました。
今回の改正点の柱は「社会福祉法人制度改革」と「福祉人材の確保」の2項目ですが、改正の中心は社会福祉法人制度改革にあります。平成12年に介護保険制度の創設や社会福祉分野への株式会社やNPO法人が参入することを可能とした改正以来の大改正であり、さらに社会福祉法人についていえば昭和26年に社会福祉法に基づき制定されてから初めてその在り方について抜本的な見直しが行われました。
今回の改正は社会保障の分野での大きな制度改革でありますが、その割にはマスコミにも余り取り上げられずご存知無い方が多く、この機に日本の社会福祉法人の状況と今回の制度改革についてご紹介したいと思います。
(2)社会福祉法人の領域である現在の日本の社会保障費の規模
急速な高齢化等により社会福祉の国民負担が膨大になっているのはご存知の通りですが、その総額がどの位の額に昇っているかは、財務省のホームページ「今後社会保障はどうなって行く?」で見られます。平成27年度で116.8兆円です。その内訳は、年金56.2兆円、医療費37.5兆円、高齢者介護10.4兆円、保育所等児童福祉2.3兆円、障害福祉2.5兆円、その他7.9兆円です。
従って三大福祉といわれる高齢者福祉、児童福祉、障害者福祉の合計は約15.2兆円に上り、この分野を担う中心的存在が社会福祉法人なのです。
(3)社会福祉法人の性格
まず社会福祉法人の性格ですが、社会福事業のみを行うことを目的とする公益性と行政サービスの受託者としての非営利性の両面の性格を持ち、市場原理では参入できないニーズについても取組みが求められる非営利法人なのです。
また社会福祉事業は第一種と第二種の社会福祉事業に区分され、その中身は法で明確に規定されています。第一種は簡単に定義すると入所施設運営の事業で行政か社会福祉法人しか経営できません。第二種はデイサービス、訪問介護、保育所等の通所系サービスで社会福祉法人に加え、民間も参入できる事業です。
以上のような性格から社会福祉法人には数々の優遇措置があります。課税面では、法人税、事業税、市町村・都道府県民税、固定資産税・不動産取得税等種々の税金が非課税になっています。また、特別養護老人ホームや保育所等の施設を建設したり、増築したりした時は、その整備費の2分の1を国が、都道府県等が4分の1を助成する制度があり、結果4分の3の助成金が支給されています。
(4)社会福祉法人数と社会福祉事業分野でのシェア
次に現在の社会福祉法人数をみると下表のように平成24年度に19,407法人で、平成2年(13,356法人)から6,051法人45%増加しています。バブル崩壊後の失われた20年の中で、日本の中小企業数が平成11年の483万社から平成26年の381万社と102万社、21%減少していることと併せ考えると、きわめて対照的であり、社会保障費が増加している中で、社会福祉法人を取り巻く環境が恵まれていたことを端的に示していると言えます。
≪社会福祉法人数の推移≫ (各年度末現在 単位:法人)
平成
2年度 |
平成
12年度 |
平成
22年度 |
平成
23年度 |
平成
24年度 |
H24年度の対2年度比較 | ||
増減数 | 増減率 | ||||||
総数 | 13,356 | 17,002 | 18,658 | 19,246 | 19,407 | 6,051 | 45%増 |
出典「社会福祉行政業務報告」厚労省大臣官房統計情報部
次に社会福祉ビジネスの中での社会福祉法人のシェアを見ると、平成23年度の社会福祉施設(法人数や会社数ではない)は全国で161,721施設あり、その種類別は下表の通りであり、約半数は高齢者施設です。そしてその施設を入所系と通所系に分類すると入所系は約46千施設で通所系施設が116千施設となっています。社会福祉法人の施設は、特養を中心として入所系施設では62.8%と約3分の2を占めていることが分かります。また児童福祉施設の大半を占める保育所では公営が9,904(44.5%)、社会福祉法人が10,977(49.3%)となっており株式会社等の進出はわずか1.4%にとどまっており、保育所では公営を除けば殆んど社会福祉法人が独占している状況です。
≪平成23年の社会福祉施設数と社会福祉法人のシェア≫
施設数 | 施設数 | 内社会福祉
法人施設 |
シェア | |||
高齢者施設 | 82,475 | 入所系施設合計 | 46,014 | 28,887 | 62.8% | |
障碍者施設 | 53,466 | 通所事業所合計 | 115,707 | 43,907 | 37.9% | |
児童福祉施設等 | 25,788 | |||||
合計 | 161,721 | 合計 | 161,721 | 72,794 | 45% |
(社会福祉法人基礎データ集:厚労省より編集)
(5)今回の社会福祉法人改革の具体的内容
今回の改革の背景には、介護保険が施行されて16年でその費用が当初の3.6兆円から10.4兆円(厚労省ホームページ)と2.9倍となっている一方、特別養護老人ホーム(特養)を始めとする高齢者介護施設を担う社会福祉法人が儲けすぎているのではないかという批判が集積してきた状況があります。特養1施設当たり3.1億円の内部留保があり、その総額が2兆円規模に達するという試算が社会保障審議会介護給付分科会で報告されたりもしました。
このようなことを受けて、社会福祉法人が補助金や税制の優遇を受けていながら、蓄積した内部留保の維持に走り、新たな福祉ニーズに応えることには後ろ向きであることや、財務諸表の公表もされていないことに多くの批判が集中し、その在り方を抜本的に見直し、オープンな組織で地域社会の中で有用な存在になる変革が求められました。
すなわち「公益性・非営利性を確保する観点から制度を見直し、国民に対する説明責任を果たし地域社会に貢献する法人の在り方を徹底する」ということであり、そのために以下の5項目が改正されました。
- 経営組織のガバナンスの強化
- 事業運営の透明性の向上 ホームページを活用して財務情報等の公表
- 財務規律の強化
- 地域における公益的な取組みを実施することを責務化する
- 行政の関与の在り方 指導・監督の強化
5項目のうち主な点について中味を見ていきますと、
①については、現在任意の諮問機関である評議員会を必置の議決機関とし、理事等の選任・解任や役員報酬の決定など重要事項を評議員会で決議し、理事・理事長等に対する牽制機能を格段に強化したことです。また一定規模以上の法人に会計監査人の監査も義務付けました。
③については、今回の本丸ともいえる項目ですが、ある一定の計算ルールの基に法人の活用可能な財産(純資産に近い)から事業継続に必要な財産を控除し、その結果を社会福祉充実残額と呼称し、この計算結果がプラスになる場合には社会福祉充実計画を作成する義務を課し、原則5年間で既存事業の充実や新たな社会福祉ニーズに有効活用することを義務付けました。すなわち余剰資産をゼロにしていく方策がとられたと言えます。
④については、社会福祉法人の本来の活動主旨を踏まえ、各法人が創意工夫をこらした多様な取組みを求めています。例として挙げられているのが、子育て家族への交流の場を提供するとか、家庭環境により十分な学習機会のない児童に対する学習支援とか、その支援を必要とする者に対し無料または低額な料金で提供することを責務化しました。
以上今回の社会福祉法人制度改革について概要を見てきましたが、改正後の初めての決算がこの7月から公表が始まり、社会福祉充実計画等についても各法人がどのような計画を策定し実行して行くかが公表される予定です。
今正に始まったばかりの社会福祉法人改革が、本当に狙い通りの改革の道を進み、地域の中で信頼され、効率的な組織に変化していくのかどうか、関心を持って見ていかなければならないと考えます。