購買部門の仕事とは ~意外に知られていない実務と習性~
- 2017/11/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 齊藤 拓
1.購買担当者はなぜ減額を要求するのか?
野球で内野手がゴロをトンネルしても、ヒット1本打たれたダメージで済みます。一方外野手がゴロをトンネルすれば、ホームランと同じ結果になりかねません。
仕事でも「多少のミスなら何とかカバーできる」部署と、「うまくいって当たり前で、何かあったら大変なことになる」部署があるとすれば、購買部門は、間違いなく後者に当てはまります。
企業には中堅以上であれば専任で、規模が小さければ他の業務との兼任でも、基本的には購買担当者がいます。
私自身は、とある企業で、営業を10年間、購買を3年間担当しました。やることは180度変わった訳ですが、ある意味で裏と表の関係でもあることを感じた次第です。
因みに私が購買担当になった時に最初に言われたのは、「購買の仕事はQCDだ」でした。
Qは品質(Quality)、Cは価格(Cost)、Dは配送納期(Delivery)を指します。最近ではこれに機能価値(Value)を加え、QCDVとも言うようですが、製造業で考えれば、品質とは先ずクレームがないことです。それが前提なら価格は低い方がよく、納期は短い方がいいに決まっています。
逆に言えば、例えば製造業で部品を購入する場合、不具合品があれば自社製品全体に不具合が発生します。価格が高ければ採算が合いません。納期が間に合わなければ、製造にかかれません。
つまりこのQCDはどれ一つとして会社として外せない要素です。「うまくいって当たり前の部署」とは、そういうことを指します。
もっとも、実際に購買担当者が毎日品質管理や納期管理に血眼になっているかと言えば、必ずしもそうでもありません。長年の取引の中で、購買先との間でこのQCDは大体標準化されているからです。
とはいえやはりイレギュラーは発生します。品質クレームや納期遅れ(社内の生産計画の変更や、単なる発注漏れなどもありえるのですが)等、いずれにせよその都度購入先の対応をするのは当然購買担当者です。いきおい、購買担当者は厳しいイメージがついて回ることになります。
購買担当者のもう一つの仕事は、先に上げたQCDなりQCDVの向上となる訳ですが、これも簡単ではありません。不具合率を劇的に下げることなど今の日本の製造業のレベルでは考えられませんし、昨今の配送事情では納期短縮化など難しいでしょう。機能価値にしても同様です。
そうなると購買担当者の考課基準は、価格だけになってしまいます。
「取引先に毎年のように、減額を要求される」とお悩みの方も多いと思いますが、結局購買担当者としては、それ以外に自分の功績を会社にアピールする方法がないからです。
2.購買担当者の習性とは?
減額を要求すると言っても、全購入品を入札制にするかと言えば、そういう話は聞きません。細かい受発注にそんな手間をかけていられないことも事実ですが、もう一つ購買担当者には「QCDの全てが100%で当たり前」で、「冒険はしたくない」という思いがしみついているからです。
仮に私がA社に転職し、部品関連の購買の担当者になったとします。
そこで納入会社B社を見て「自分が過去につきあってきたC社の方が、安価に高品質の製品を提供してくれる。」と仮に思っても、私がすぐに購買先を代えることはまずありません。これもこの購買担当者の習性によります。
B社と取引を打ち切りC社に切替えた場合、いくらC社の方が総合力は上でも、いきなりの取引では、慣れていたB社に比しトラブルが発生する可能性は当然あります。もしそうなれば
「長年の取引を打ち切って、コネでC社みたいな会社と取引を始めたからだ」
「齊藤は、C社から袖の下でも貰っていて、前の会社にもいられなくなったんじゃないか」
などという話になることは、購買担当者ならすぐに脳裏に浮かぶことです。
逆にB社が問題を起こしても、私としては
「自分は従来の取引を踏襲しただけだから何も責任はない。
B社は我が社の購買水準を知り尽くしているのだから、この問題の全責任を負うべきだ」
と言えば、それはそれで通ります。
これが、購買マンは冒険を避けるということの、本質的な意味だとご理解ください。
とはいえ私としても、ただ受発注業務だけやっている訳にもいきません。購買部門は「うまくいって当り前」でそうやって日々を過ごせば
「購買の専門家なんて言っておきながら、ルーティンワークをしているだけか。」
「あれなら専任の担当者を置く必要なんかないだろう。」
と言われてしまうのではないか、サラリーマンには必ずそういう心配が着いて回ります。
そうなると、結局現行取引先に減額を要請することから、始めることになります。
つまり購買担当者としては、「出来るだけ従来の取引先は維持しつつ」「価格面でうまく折り合うにはどうするか」を考える訳です。ある意味で営業と裏表の関係にあるというのも、そういうことを指しています。
価格や納期で厳しいことを言ってくる購買担当者にも、こういう事情があるのだということを、少しでもご理解いただければと存じます。
ではそのような相手にどう対応するか、この点は11月24日の18時30分より、川崎市産業振興財団主催にて開催されるセミナーで、触れていきたいと考えておりますので、宜しくお願いいたします。