夢をつなぎ笑顔にする事業承継
- 2018/4/1
- 診断士の視点
三瀬 隆(さんせ たかし)
1)経営者の悩み
最後は子供に迷惑をかけたくない、自分にふさわしいエンデイングを迎えたいなど終活を意識する人は増えています。新聞記事にも話題にもなっています。
一方で、実際その準備を始めたいが具体的なやり方がわからない、タイミングがなかったなどで準備ができていない経営者が多いのです。
東京商工会議所平成30年1月事業承継の実態に関するアンケート調査によると60代経営者の企業で約7割、70代でも半数近くの企業が後継者を決定していません。事業承継が中小企業の大きな課題になっています。
中小企業の事業承継で、経営者の皆さんが悩みとしているものを紹介します。
28年9月中小企業基盤整備機構:事業承継をする上での課題より経営者の悩みは上位6つがあります。皆さんはいかがでしょうか?
- 自社株式に関わる相続税、贈与税の負担について(46%)
- 将来の経営不安(40%)
- 後継者が不在(37%)
- 借入金、債務保証の引き継ぎ(24%)
- 資産に関わる相続税、贈与税(14%)
- 親族間の調整(12%)
出典:「中小企業における事業承継に関するアンケート・ヒアリング調査」(2016年2月、中小企業庁)をもとに著者再編
今年、平成30年に事業承継税制の特例法ができました。自社株式の後継者への対応策であり、経営者が悩む課題をこの仕組みを使うことで解消できる可能性があります。自社株式に関わる課題解決に特例法の活用をぜひご検討ください。
2)社会環境の変化
中小企業の事業承継の話題が最近は新聞によく掲載されています。
寿命が伸びて人生100年時代と言われる少子高齢化社会となっています。
事業承継の実態に関するアンケート調査(東京商工会議所30年1月)では、経営者の平均年齢は60歳以上が全体の約65.2%を占めています。
厚生労働省の簡易生命表から、2016年の日本人の平均寿命は、男性80.98歳、女性87.14歳です。
健康寿命を考えると事業を後継者につなぐための時間はそう多くは残されていません。後継者へつなぐことの意識を強く認識することが求められます。
3)中小企業の事業承継の課題
後継者の決定は、事業承継の準備におけるはじめの一歩です。
会社が魅力的でないと後継者は承継しません。会社の魅力を作っていくことが求められます。中小企業基盤整備機構が平成23年3月に公開した事業承継実態調査によると、経営者が後継者への引き継ぎで苦労した点は上位で5つあります。
- 経営力の発揮
- 金融機関からの借り入れ
- 取引先との関係維持
- 一般従業員からの指示や理解
- 金融機関との関係維持
財産相続をすればそれで事業承継は終了と考えてはいけないことが、経営者が引き継ぎで苦労した点からもわかります。後継者が将来きちんと経営できるようにしていく準備が要ります。
また、30年1月東京商工会議所の事業承継の実態に関するアンケート調査によると事業承継の障害課題と感じていると回答した割合が高い順に、下記の5つがあります。上位5項目は、ほとんど差はありません。
- 後継者の探索確保
- 後継者の教育
- 後継者への株の譲渡
- 借入金債務保証の引継ぎ
- 自社株式の評価額
後継者に関することが多く、しっかりした準備が必要なことがわかります。
4)事業承継の3つのポイントについて
誰になにをどのように引き継いでいくかで大きく3つの対応が要ります。
それぞれについて現状確認を行い、対応検討シナリオを構築します。
1.経営資産を承継する(経営を魅力的にして持続経営を行う)
経営状況、経営者の株式比率状況、会社の強み特徴、今後の経営計画などを確認します。魅力を整理して新たな魅力構築で成長を検討します。
会社の歴史、社長の思いを整理して人脈、特許、ノウハウなど見えない無形資産も承継します。経営を魅力的にして持続経営を行うためのものです。
2.有形資産、財産を承継する(財産の相続を円滑に行う)
総資産(会社株式、会社の土地、その他不動産、有価証券資産、借り入れ、個人資産)について確認します。
後継者について、相続する家族親族の家系図を確認、遺留分の計算、承継シナリオを検討します。経営者の思いや各種情報から、株式の配分や家族への全体の相続バランスをとることが大切です。単に相続だけではなく全体を俯瞰していきます。各種の専門家をコーデイネートして算出し、全体のコーデイネートを行います。株式は持ち分の比率をどうするかを検討します。
3.法務に関する対応(リスクの回避をする・争族にしない)をする
家族への遺言書、信託、慰留相続、などの対応になります。
5)事業承継は計画準備が必要
事業承継は準備が必要です。長きにわたり承継できている事例を見ると、そこには計画準備が存在します。後継者が経営力を発揮できるような育成の期間は、5年から10年はかかると経営者は考えているようです。
歴史的な視点で長期間の事業承継を着実に行っている事例には、伊勢神宮があります。人、物、お金、情報と準備をして持続してきています。
材木の調達、加工する人(大工)機材の調達、資金、情報やり方、仕組みをきちんと計画して実行しています。
自社の計画の中で事業承継に関する計画はどうなのでしょうか?
自社を振り返り、期間をかけて準備をしているでしょうか?
時間もなくこれから急ぐなら、専門家(例えば事業承継士)への相談が早い方法です。全体シナリオを依頼し、課題については、各種の専門家(税理士、弁護士、司法書士、中小企業診断士など)をコーディネートして全体のコンセプトシナリオを構築し進めていくことも有効な手段です。
今年、平成30年は新たに事業承継税制特例法が設定されました。
経営者の関心ごとである株式の贈与相続面で、要件を満たせば100%
納税猶予される仕組みです。この制度はこの10年での限定期間があります。
5年以内に承継計画を提出し10年以内に承継していく計画を立てることが必要です。この機会にぜひ事業承継を検討することをおすすめします。
まずは計画を立てることを具体的にやってみましょう。
(事業承継シナリオ計画例)
6)経営承継を検討する
長い間経営をしてようやく後継者にバトンタッチをする時期になると今までの商品やサービスが、社会環境の変化に対応しきれず陳腐化し売上や利益が伸びていない、減少しているなどの事例もあります。
後継者にとっては魅力のない会社を引き継ぐことになりかねません。
これを成長性のある事業に革新して魅力化いくことが重要です。
経営に関する思いをまとめて、自社のポジション、強みを見直し、製品の差別化を図って、競争力を増していく取り組みが欠かせません。
経営計画とあわせて事業承継計画を立てて準備をしていくことでハッピーリタイヤを実現していきます。相続の課題を解決することだけで終わるのではなく持続的経営を行うための経営承継が重要です。
後継者がリーダーとしての新規事業開発プロジェクトなども手段の一つです。
さらに後継者+後継者のスタッフ育成も重要事項です。
経営者は自分の中に答えを持っていることが多いです。
一人では発見できないこともあります。再度自分に問いかけてみてください。
- 将来の会社はどうありたいのか?
- 会社の強み魅力はなにか?
- 会社の魅力や強みをどう伝えていくのか?
- 課題解決の方法はどうしたらいいか?
時代の変化に対応して自分自身の考え方を整理することです。
自分自身が見えなければ経営支援アドバイスを受けることが、新たな一歩を踏み出せる可能性につながります。
事業承継は個々多種多様です。対応する手段も多種多彩です。
変化に対応し計画を立てることがはじめの一歩につながる重要事項です。
以上