中小企業こそ健康経営を!
- 2018/8/1
- 診断士の視点
1.健康経営*¹という言葉を聞いたことがありますか?
皆さまは健康経営という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?
我が社は健康診断はやっているし、禁煙の取り組みにも着手した、そういえばストレスチェックをやりましょうと言ってきたな、まあ人事担当がしっかりしているから任せておけばいいか。というように自社の福利厚生施策を思い浮かべるだけで、健康と経営という単語が結びつかない経営者の方も多いのではないでしょうか。
実際に昨年12月に経産省が実施した「中小企業における健康経営に関する認知度調査」では、3,476社の回答中まったく知らなかったという会社が52%と半数を超えています。これに対して2013年1月に東証一部上場企業226社に聞いた調査*²では、知らない(未回答含む)という回答は約19%であり、実施年も考慮すると中小企業と大企業の健康経営という言葉への認知状況にはかなりの開きがあります。
*¹「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です
*² 電通、ヘルスケア・コミッティー、日本政策投資銀行「健康経営センサス調査」
2.では健康経営とは
健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点から考えて戦略的に実践する新しい経営手法のことです。健康管理を担当者任せにしたり従業員の自己責任とはせずに、従業員の健康を維持・増進することが従業員の活力向上と組織の活性化をもたらし、ひいては業績向上と企業価値向上につながるという考え方です。
この考え方は、米国の臨床心理学者ロバート・ローゼンが1992年に出版した著書で提唱した「ヘルシーカンパニー」という概念に端を発しており、日本でも大企業を中心にこの考え方が普及してきたのは上記調査のとおりです。
特に最近では、この健康経営を、日本経済の喫緊の課題である企業の生産性向上と社員の働き方改革のベースとなりうる経営戦略と位置づけて、経産省が積極的にその導入を推進しています。具体的な動きとして、経産省は企業の健康経営を推進するために以下の顕彰制度*³を設けました。
➀健康経営銘柄
経産省と東証が共同で実施するもので、優れた健康経営の取り組みを実施する企業を東証上場企業33業種から各業種につき1社ずつ選定します。2014年度から始まり、4回目となる「健康経営銘柄2018」には26業種26社が選ばれました。
健康経営銘柄に選定されることで企業のステークホルダーに対する新たなPR手法となったほか、従業員を大切にする企業として採用活動において注目を集めるようになりました。
【健康経営銘柄2018】
http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180220002/20180220002.html
➁健康経営優良法人
また、上場企業に限らずに幅広い法人を対象とした、日本経団連・日本商議所・医療関係団体・自治体リーダー等から構成される「日本健康会議」による認定制度として、「健康経営優良法人認定制度」が2016年度から開始されました。2回目となる「健康経営優良法人2018」では大規模法人部門(ホワイト500)に541法人、中小規模法人部門に776法人が認定され、認定法人は開始から2年で倍増しています。
【健康経営優良法人2018】
http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180220003/20180220003.html
なお、ここではご紹介できませんが、健康経営にはこの顕彰制度のほか、自治体や金融機関の優遇施策も提供されるようになってきています。
*³ 経産省ホームページより
3.健康経営を実現するには
健康経営を企業の経営戦略に組み込むには、従業員の健康管理をコストではなく人的資本に対する投資として認識することから始まります。投資である以上は経営判断が必要となりますので、まずは経営者の意識転換がスタート点になります。以下にご紹介するのは上記の「健康経営銘柄」の選定基準となる5つのフレームワークとその評価指標であり、健康経営を実現するための仕組み作りの基本となるものです。なお、中小企業までを対象とした「健康経営優良法人認定制度」も同じフレームワークを基に設定されています。
➀経営理念(経営者の自覚)
ここがスタート点です。まずは健康宣言をしていただき、それを社内外へ発信するとともに、経営者自身が率先して健康診断を受診しましょう。
➁組織体制
全社の健康管理を推進するために、健康づくり担当者を設置します。
➂制度・施策の実行
これは具体的な施策とその実行です。大きく分けて以下の3つになります。なお、顕彰制度の評価にあたってはすべての項目を実施することが必須ではありません。
a.従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討
定期健診受診率(実質100%)などの4項目について検討します。
b. 健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメント
ヘルスリテラシーの向上、ワークライフバランスの推進、職場の活性化、病気の治療と仕事の両立支援の4項目についての取り組みです。例えばヘルスリテラシーの向上では従業員への健康セミナーの実施などです。
c.従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策
保健指導、健康増進・生活習慣病予防対策、感染症予防対策、過重労働対策、メンタルヘルス対策に関する7項目の取り組みです。例えば健康増進ではラジオ体操やヨガプログラムの実施などです。
➃評価・改善
保険者へのデータ提供(保険者との連携)を実施します。
➄法令遵守・リスクマネジメント
労働安全衛生法と安全配慮義務の遵守が必要です。
4.中小企業こそ健康経営を!
いかがでしょうか、健康経営について限られたスペースにかなり詰め込んだご紹介でわかりにくかったかもしれませんが、申し上げたかったことは「中小企業こそ健康経営を!」ということです。
その理由は大きく以下の3点です。
➀会社の業績向上につながる
従業員の健康維持・増進に取り組むことで、従業員が身体的にも精神的にも毎日元気に働けるようになります。特に中小企業の場合は少人数なので従業員ひとり一人の重要性が高く、一人でも戦力外になることは大きな痛手となりますので、経営的な視点で見て健康経営は生産性の向上に寄与して業績向上につながります。
➁人材採用に有利になる
従業員の健康に配慮した経営をしていることが外部の関係先に伝わることで、会社のイメージアップにつながります。さらに「健康経営優良法人」に認定されれば効果の高いPRになります。それが取引先から良い評価を得ることになったり、また採用活動にも有利に働きます。最近の売り手市場で中小企業の人材採用はますます難しくなっています。そのような状況のなかで就活生の大きな関心事項は会社が従業員の働き方や健康に配慮しているかということですので、健康経営に取り組んでいるという評判が伝われば結果としてよい人材の採用につながります。
➂社内が活性化する
健康経営を実践して上記3でご紹介したような様々な取り組みを全社で行うことは、従業員同士で話をしたりお互いを気遣ったりする機会も増え、社内のコミュニケーションをよくすることにもつながります。特に中小企業は、経営者自らが健康経営に取り組み姿勢を見せることで組織の一体感を醸成しやすく、社内の活性化で生き生きと働くことのできる職場づくりに役立ちます。
この記事が、従業員の健康維持・増進を経営的な視点でお考えいただくきっかけになれば、喜ばしい限りです。