経営改善計画書活用のご案内
- 2020/1/1
- 診断士の視点
1. はじめに
経営の羅針盤として有効な経営改善計画書ですが、意外と知られていないのも事実です。リスケの際に金融機関から提出を要請されるだけのものという消極的な見方をする経営者の方もあります。
本稿では、自社の経営力向上、利害関係者とのコミュニケーションツールとして役に立つ「経営改善計画書」について、その種類や用途、作成方法について解説を行います。
経営改善計画書の書式については確定したものはありません。会計事務所、金融機関、行政機関など、それぞれの立場で書式を作成し、ホームページで公開しています。どちらかと言いますと会計事務所、金融機関の作成する書式はそれぞれ緻密で、中・長期予想損益計算書などがエクセルで挿入されている例が多くなります。
2. 最もシンプルな経営改善計画書・・都内M区事例
図表1は、都内M区の作成した経営改善計画書の目次です。A4で3枚+アルファの分量ですので、書きやすく分かりやすい組立てになっています。簡易版ではありますがポイントはしっかり押さえていますので、M区の運営する「経営改善融資制度」で必須の書類であり、保証協会や金融機関で信頼されている書式です。
目次 | 内容 |
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1. 基本事項 | 創業年月日、資本金、役員数、従業員数、業種・取扱品目など |
2. 企業概要 | 沿革、経営理念、方針、特徴など |
3. 現状分析 | ①ビジネスモデル俯瞰図 ②外部環境(機会・脅威)、内部環境(強み・弱み)・・SWOT分析。 ③クロス分析・・現状の問題点と課題、改善目標と解決策。 |
4. 改善スケジュール | 何を、だれが、いつまでに、どこまで(アクションプラン) |
5. 財務関係改善計画書 | 直近1期分の実績記入、次年度から3期分の計画数値記入 |
経営改善計画書作成の流れの中では、(図表1)目次3の「現状分析」がポイントになります。まずビジネスモデル俯瞰図で自社の仕入先・外注先、社内オペレーション、販売先などの把握とバリューチェーンの確認を行います。SWOT分析では、外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)を洗い出し、外部環境の脅威、内部環境の弱みから自社の問題点と課題を見つけます。次のクロス分析で、改善目標と解決策を発見します。
3. 経営改善は、現状分析から始まる
①ビジネスモデル俯瞰図
図表2は、日本政策金融公庫が作成して、ホームページで公開している書式の中から作図入力したものです。自社のビジネスモデルを見える化する方法として、極めて有効な俯瞰図です。ここでしっかり現状把握を行い、次のSWOT分析へ進みましょう。
(図表2)
②SWOT分析
外部環境 | |
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機会(Opportunity)
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脅威(Threat)
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内部環境 | |
強み(Strength)
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弱み(Weakness)
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出所:日本政策金融公庫、公開ホームページ「経営改善計画書記載例」から転記
SWOT分析は、外部環境と内部環境の洗い出しを図表3のように4象限に分けて記入します。当然強みが多く機会が多い程経営環境は良いといえますが、競合の激化など機会が少ない時代ですので、脅威や弱みなどに見いだされる問題点や課題を克服して市場に挑戦する必要があります。ここまで来たらクロス分析を行い、改善目標と解決策を策定します。
③クロス分析
クロス分析 | クロス分析で導かれた具体的なアクション |
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強みを活かして機会をつかむ | デジタル技術を持つ若手が中心となり、ホームページ企画・制作などの情報・ソフト分野の事業の立ち上げ、新規事業の収益を確保 |
弱みを克服して機会をつかむ | 外注管理の強化を図り、外注加工に要する時間を短縮し、短納期の受注を獲得する |
強みを活かして脅威を回避する | 顧客ニーズへの対応、および営業強化により、比較的利益率の高い既存の直接取引先との関係を維持し、競争激化による利益率の低下を回避する |
弱みを克服して脅威を回避する | 経営計画策定、目標管理制度の導入などにより従業員のモチベーションを高め、労働生産性を上げて厳しい経営環境に対応する |
出所:日本政策金融公庫、公開ホームページ「経営改善計画書記載例」から編集・転記
クロス分析に入る前に、SWOT分析で抽出された項目について十分検討する必要があります。見落とした強みや弱みはないか、外部環境について漏れはないかを再検討します。この際、関係者や外部人材など信頼できるメンバーを募って複数の目で検討することが大事です。ここで、改善目標と解決策を見つけます。
4. 早期経営改善計画策定支援(プレ支援)
以上ご説明した内容の支援は、川崎市産業振興財団や金融機関、商工会議所、中小企業振興公社などで無料の作成支援を受けることができる場合があります。さらに本格的な経営改善計画書の作成支援が「早期経営改善計画策定支援」です。総額30万円の予算で、国が20万円を負担します。10万円は受益者負担となりますが、神奈川県経営改善支援センターが最初から最後までフォローします。
事業者の申し込みによって、メインバンクと認定支援機関の3者協同で経営改善計画書の作成を行います。認定支援機関は、計画書の作成支援から場合によっては、翌年度の決算期まで、経営改善のお手つだいを続け、フォローアップ診断で、成果を確認します。(一社)川崎中小企業診断士会は、認定支援機関として認証を受けていますので、この制度によるお手伝いが可能です。