「聴く」からはじめる経営改革
- 2020/3/1
- 診断士の視点
変化できる企業が生き残る
今さら言うまでもありませんが、世の中の変化はどんどん速くなっています。そのような環境の中で企業が成長するためには、そうした変化に対応することが不可欠です。進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの言葉に「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」というものがあります。この考え方は、現代の企業にも当てはまるのではないでしょうか。
では、変化に対応できる組織とはどのような組織でしょう? 一般に、規模が小さい企業ほど変化への対応力が高いと言われています。そうした意味では、中小企業は今の時代はチャンスと考えることができます。ところが、企業が成長する過程において、規模が大きくなるだけでなく、独自の組織文化が形成されていきます。これは企業にとっては大きなメリットですが、変化対応力という観点ではデメリットになります。では、変化対応力のある組織をつくるにはどのようにしたらいいのでしょう?
マネジメントのパラダイムシフト
ここでは、私が最近関わった企業の例を紹介したいと思います。その企業は歴史も長く、業界でも優位な位置を長年占めてきました。ところが、市場環境が大きく変化しはじめ、変化対応力を強化する必要が生じました。これまでは、上が決定して下が実行するというやり方で、高品質なサービスを大量に提供できていましたが、現場の人たちが「自らが考えて行動する」ことが求められるようになってきたのです。
最初に取り組んだのが、次世代リーダーの能力向上です。選抜されたメンバーに対して研修を実施し、職場の業務改善を通して問題解決力を高めようと試みました。結果的にはメンバーの能力は向上しましたが、職場の改善にいたらないケースが散見されました。そこで浮き彫りになったのがマネジメント層の課題です。いくら部下が「自ら考えて行動しよう」としても、マネジャーが妨げとなってしまうケースがあったのです。
そこで、次に行ったのがコンサルタントによるマネジャーたちとの定期的な面談です。面談を通して分かってきたことは、マネジャーたちは「自ら考えて行動する部下を育てる」ことの必要性は十分に理解していました。しかし、そのような行動ができているかを振り返ってみると実態は違うことに本人たちも気づき始めました。対象者は、50代の課長クラス。若い頃から上意下達の世界で育った世代ですから、「部下よりも自分が正しい答えを持っている」「教えたり、指示を出すのがマネジャーの役割だ」といった意識が強く、自分と反対の意見が出ると、実行する前に否定的な発言をすることが多くありました。マネジャーたちには意識の転換(パラダイムシフト)が求められていたのです。
「聴く」からはじめる組織活性化
まず心がけてもらったのが「傾聴」です。部下の意見を最後まで聴ききる(傾聴)、そして、まずは受け入れること(受容)で、部下が話しやすい関係性をつくることを目指しました。はじめはマネジャーたちも我慢できずに途中で自分の意見を押し付けてしまったり、部下も否定されることを恐れてなかなか発言しないケースもありました。しかし、意図や努力が部下に伝わるに従い、少しずつ部下からの意見や自発的な行動が増えるようになりました。マネジャーたちは会社の方針と違う方向に行きそうな場合や、目的を見失っているような場合に方向修正をする程度で、できるだけ部下たちが「自らが考えて行動する」環境をつくることを心がけました。次第に職場は活気づき、時にはマネジャーが気付かなかったアイデアが生まれることもあり、業績の向上につながる結果となりました。
現代社会は、市場ニーズが細分化されているため、会社が正しい方向に向かうには現場の声が欠かせません。いかに現場の声を経営に反映させていくかが、重要な経営課題になってきます。世界で最も著名なビジネス書のひとつ『7つの習慣』(スティーブン・R・コビー著)では、第5の習慣として「理解してから理解される」という内容が書かれています。成功するためには、まず、部下を理解することが重要なのです。
関係性の質を高めることが組織成功のカギ
最後に、今回紹介した取り組みにおいて、ベースとなった考え方を紹介します。ダニエル・キムというアメリカの学者が提唱している「組織成功の循環モデル」という考え方があります。下の図で示したように、「組織の成功循環モデル」にはグッドサイクルとバッドサイクルがあります。バッドサイクルは、結果ばかりを追い求めてしまうと「結果の質」が低下した場合に、「関係の質」が悪化します。すると「意識の質」が低下し、「行動の質」も低下する結果、さらなる「結果の質」の低下を招きます。
一方、グッドサイクルでは、「関係の質」を高めるとで「意識の質」が向上し、「行動の質」が改善する結果「結果の質」が高まるというものです。なかなか成果が出ないとお悩みの経営者やマネジャーのみなさん、一度、組織の「関係の質」を見直してみてはいかがでしょう。