「業務改善の風土」を育てよう
- 2020/7/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 金澤 良晃
業務変革が迫られる時代が到来している
新型コロナの影響で、多くの企業がリモートワークを導入したと聞きます。業種や職種にもよりますが、私の周りにも「在宅で仕事をするようになった」という方は多くいました。
その結果、「意外にスムーズに導入できた」という肯定的なコメントをする方もいれば、逆に「リモートワークは上手くいっていない。コロナが落ち着いたらオフィスワークに戻したい」と否定的に考える企業もあったようです。
企業によって状況は異なるため、リモートワークを推進するべきか、するべきでないかを一概に言うことはできません。しかし、今後も第2波、第3波が来るかもしれないという予想もありますし、コロナ以外の自然災害による被害、貿易摩擦などの政治経済リスクなどもゼロではありません。こうしたリスクが現実に起こってしまった時、企業は柔軟に対応できる体制を整えておかなければ、存続することは難しくなるでしょう。
さて、「リスクに備える体制づくり」といえば、一般的には事業継続計画(BCP)を思い浮かべる方は多いと思います。しかし、私は敢えて「業務改善の風土づくり」を強調したいと思います。
事業継続計画だけではダメな理由
事業継続計画(以下、BCP)は、上記で挙げた様々なリスクが実際に起こってしまった場合、事業をどのように継続していくかを予測し計画としてまとめたものです。例えば「もし大地震が来たら、〇〇部門では□□業務を継続して、△△業務を休止する」といったことをあらかじめ決めておくわけです。事業継続計画を立て、定期的に見直したり想定訓練をすることで、いざという時に迅速に対応できるというメリットがあります。
しかし、私はこれまでBCPを策定されている企業を何社か訪問させて頂きましたが、憂慮してしまうことが幾度かありました。それは、BCPを一度作っただけでその後何年も見直しをされていないケースや、BCPの存在を知っているメンバーが経営陣の一部だけのケースなどです。これでは「いざという時に、迅速に対応することは難しい」と言わざるを得ません。
「業務改善の風土づくり」の重要性
そこで、私が伝えたいことは「業務改善の風土づくり」の重要性です。
BCPは全社的な事柄であり緊急事態を想定したものであるため、通常はトップダウン型で実施されます。一方、業務改善は現場の細々としたことを取り扱う性質があるため、ボトムアップ型で行われることが一般的です。真逆の性質を持つ業務改善が、なぜ必要なのでしょうか。
話を分かりやすくするために単純化した例を挙げます。仮に、何らかの既得権益がある事業を行っている企業があるとします。そうした企業は、業務改善を行わなくても利益は出るため、従来からの古いやり方のまま仕事をしがちな傾向があります。この企業が、今回のようなコロナ緊急事態下にトップからBCPの実行指令があった時に、現場の社員はどのように動けるでしょうか。恐らく、言われるままに指示待ち状態になってしまうと考えられます。
逆に、普段から業務改善に取り組んでいる組織は、トップ主導で作られたBCPに対してもボトム(現場)が内容を検証し、自分たちでより良い方法を考えていくことができます。下りてきた緊急指令に対して、自分たちでもその目的を考えて行動することができるのです。
「緊急事態においては、現場は何も考えずにトップからの指令にのみ従っていればよい」という考え方もあります。しかし、もし何らかのトラブル(通信障害など)でトップからの指令が届かないような場合は、現場は何もできません。そして、その組織は生き残ることが難しくなります。
以上のことから、業務改善の風土づくりは、企業の存続に大きな役割を持つのです。
業務改善は、チャンスによる変化にも対応できる
上では「業務改善は緊急事態下において有効である」とお伝えしてきました。しかし当然のことですが、業務改善は企業の成長期や成熟期においても大きな効果を発揮します。
近年ロボット・IoTなどの技術は発展し、これらを導入する企業は増えています。「これまで人間が行ってきた仕事の多くがなくなる」という話もよく聞きます。新技術が労働者の仕事の一部を担ってくれる時代が到来することで、労働者を取り巻く環境は今後も大きく変わると予想されています。
まず、こうした新技術の導入(変化)をチャンスと捉える必要がありますが、その時に重要なポイントがあることをお伝えしておきます。
これまで私は、ロボットやIoT技術を導入した企業を30社ほど訪問しインタビューをさせて頂いたことがあります。そこで多くの企業が仰っていたことは、「単に新技術を導入すれば、生産性が上がるものではない」ということです。言い換えると、「何も考えずに新技術を導入していたら、かえって生産性は悪くなっていただろう」という意味です。
私も、その言葉に共感しました。インタビューをしていると、うまく新技術を導入できている企業は、実は普段から業務改善を繰り返していることが分かりました。
十分に業務改善した上で、どうしても人手では難しい作業を見つけ出し、集中的にロボットなどの新技術を導入していたというのです。つまり大切なのは、「まずは人間の力でできる改善を模索すること」なのです。その能力がなければ、いくら最新鋭の技術を導入しても使いこなすことはできません。
おわりに
紙面の都合上、業務改善の方法論については割愛させて頂きましたが、業務改善自体の重要性は感じ取っていただけたのではと期待します。多くの企業で、現場社員が主体的に業務改善を行える風土づくりに力を入れて頂けることを祈ります。
以上