男性がスムーズに育児休業を取得するために
- 2020/8/1
- 診断士の視点
中小企業診断士・社会保険労務士 高橋 美紀
現状は「6.16%」、その内容は
女性82.2%、男性6.16%-この数字は何でしょうか。答えは、直近の育児休業取得率です(厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」(事業所調査)より *1)。
女性活躍や少子化対策を進めるうえで、男性社員の育児参加はきわめて重要です。いくら女性活躍が声高に叫ばれても、育児における役割分担が女性に偏り、一方で長時間労働が放置されているようでは、女性は活躍どころか疲弊するだけです。その問題意識から、政府は、令和2年までに男性の育児休業取得率を13%にするという目標を掲げています。
しかし現状は冒頭の数字の通りです。しかも男性の育児休業は「5日未満」が36.3%、「5日~2週間未満」が35.1%と、およそ7割が10カ月以上休業する女性と比較して著しく短期です(*2)。
では、男性に育児休業取得の希望はないのでしょうか。厚生労働省委託事業「平成30年度 仕事と育児等の両⽴に関する実態把握のための調査研究事業(労働者調査)」によると、3歳未満の子どもを持つ20~40歳代の男性正社員のうち、育児休業を利用したかったが利用できなかった人の割合は37.5%にのぼっています(*3)。つまり、御社でこの年代の男性社員が10人いたとしたら、3~4人が育児休業を何らかの理由で諦めてしまっていることになります。
どうして育児休業が取りにくいのか
先の厚生労働省委託事業調査によると、男性が育児休業制度を利用しなかった理由で多かったのは、「収入を減らしたくなかったから」が32.4%と最も多く、続いて「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」(25.0%)、「残業が多い等、業務が繁忙であったから」(18.1%)、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」(16.1%)となっていました(*4)。
このうち最も多い「収入の減」については、そもそも育児休業給付金について知られていないことが一因の可能性があります。育児休業給付金とは、雇用保険加入者に対し、休業中の生活保障として支給されるものですが、この制度を認識している男性は54.9%に過ぎないことからもそれがうかがえます(*5)。
一方、「育児休業が取りづらい雰囲気」「業務多忙・属人化」という理由の裏には、職場環境や働き方の問題があると推測できます。さすがに申出を即座に拒否するケースは減っていると思われますが、職場で「男性の育児休業なんて現実的には無理」という会話がなされていたり、周囲が忙しく働いていて休みを言い出せなかったりするなら、それが取得の抑止力となることは十分考えられます。前例がなければなおさらです。
取組は「仕組みづくり」と風土変革のセットで
このような状況を変えていくには、企業がその職場環境や風土から変革することが重要です。
まずは、「育児休業が取りづらい雰囲気」を変えましょう。具体的に「取りづらい雰囲気」の正体は何か突き詰めて考える必要はありそうですが、先の調査結果を踏まえると、「業務多忙」なら、具体的に何が忙しいのか現状を分析し、改善の余地がないか探るところから始めます。とはいえ、そこから取り組むとなると、とても休業開始に間に合わない、という職場もあるかもしれません。最低限、その休業取得者の業務を棚卸したうえで、本当に必要な業務を見極めたり、業務手順書作成などで業務の「見える化」を図ったりしたうえで、そのカバーに向けた仕組みを整えます。
このような取組により、「制度はあるけれど利用できる雰囲気にない」を、「何とかなりそう」に変えていきましょう。
一方で、育児休業の意義や制度について、経営トップや管理職がしっかり理解しましょう。なぜ若い男性社員が育児休業を希望するのか。それは家族にとってメリットがあるからです。「子育ては女性がするもの」という価値観は、若い世代ほど薄れています。また、申出拒否や嫌がらせはハラスメントに該当する恐れもあると認識しておきましょう。
男性の育児休業から、働き方改革の実現へ
もちろん、男性の育児休業は、企業にとっても大きなメリットがあります。この休業を契機に業務の整理が進みますし、属人化排除が期待できます。責任の重い業務を担当している社員の場合は、確かに周囲も本人も不安があるでしょうが、逆に若手社員育成のチャンスと捉えることもできます。誰かが不在でも業務が回る仕組みが構築されていることは、危機管理の側面からも重要であると、このコロナ禍で感じた方も多いのではないでしょうか。
また、休業を取得した社員の、会社に対する帰属意識の向上が期待できます。制約を持ちながら働く人の気持ちが分かる社員が増えれば、多様な人材活躍の契機ともなり得ます。安心して働ける職場であることが内外に伝われば、労働力人口の減少が懸念されるなか、採用・定着にも好影響を及ぼすことでしょう。
こうしてみると、男性の育児休業は、働き方改革に向けた取組と重なることに気づかれるでしょう。目の前のことだけを考えると「一人抜けたら困る」と怯みがちですが、将来を見据えた取組の先には、生産性向上や、誰もがキャリアを積みやすい環境への道筋が拓けているのです。
支援施策を上手に使う
さて、厚生労働省でも、男性の育児休業を後押しする施策を準備しています。
両立支援等助成金の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」は、男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りに取り組み、実際に子の出生後8週間以内に連続5日(中小企業以外は14日)以上の育児休業の取得者が生じた場合に助成金が支給されます。金額は1人目なら57万円(中小企業以外は28.5万円)ですが、他にも加算がつくことがあります。なお、育児休業でなく、育児目的休暇制度の導入に対しても、類似の支援策があります。詳細は厚生労働省のホームページをご参照ください(*6)
また、川崎市でも、働きやすい職場づくりに積極的に取り組んでいる中小企業を対象に、「かわさき☆えるぼし」認証制度を創設しています。このような認証を目標にするのもお勧めです(*7)。
<出所>
*1 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-30r.html P.16
*2 *1に同じ、P.18
*3 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000534370.pdf P.20
*4 *3に同じ、P.21
*5 *3に同じ、P.22
*6 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
*7 http://www.city.kawasaki.jp/250/page/0000099921.html