いまさら聞けない「テレワーク」の始め方

中小企業診断士 松林 栄一

コロナ禍で中小企業にも導入が進むテレワーク

新型コロナウイルス感染症の影響(以下、「コロナ禍」)が出る以前から、政府はテレワークの導入を呼びかけていました。しかし、従業員2,000人以上の企業の実施率46.1%に対して、従業員300人未満の企業の実施率は14.5%にとどまり(総務省「平成30年通信利用動向調査」による)、テレワークが中小企業に浸透しているとは言い難い状況でした。

しかし、2020年4月に全国を対象に緊急事態宣言が出されると、上記の傾向が一変します。東京商工会議所「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」(2020年6月)によると、全体のテレワーク実施率は67.3%で、同年3月の調査時に比べ、41.3ポイント上昇しました。従業員規模が大きいほど実施率が高いという傾向は変わっていませんが、従業員30人未満の企業でも実施率は45.0%と高くなっています。

テレワークの導入メリット

以前から、政府では「生産性の向上」や「多様で柔軟な働き方の促進」というメリットを打ち出していました。コロナ禍の終息の見通しが立たない今、テレワークの導入にはいかなるメリットがあるか、改めてまとめておきます。

(1)   労働生産性を高められる

コロナ禍以前から言われていた「生産性の向上」というメリットです。テレワークでは、従業員の自宅、または自宅から近い場所で勤務してもらうことができるため、通勤時間をゼロにするまたは限りなくゼロに近づけることができます。

また、テレワークには、業務に最適な場所と時間帯、自分のペースで仕事ができることから、業務効率を高める効果があると考えられます。労働生産性向上を目的としてテレワークを導入した企業のうち、82.1%の企業がテレワーク導入により目的とする効果を得たと回答している(「平成30年版 情報通信白書」第1部より)というデータが、そのことを裏付けています。

(2)   人材を確保しやすくなる

コロナ禍では、保育園・幼稚園、小中高校、学童保育などが閉鎖され、子どもを預けられない保護者が続出したのは記憶に新しいところです。デイサービスなど高齢者福祉の事業所でも休業したところが多く、介護上の都合で出勤できなくなるケースもありました。

コロナ禍の緊急対応の側面を度外視しても、今後国内の生産人口の減少が確実であるという外部環境を考えると、子育て中や介護中の方にもプライベートな事情と両立しながら働いていただける状況を整えることは、必要な労働力を確保し、人手不足を解消するための有効な手段となります。

(3)   顧客に対する商品・サービス提供活動を下支えする

コロナ禍では、法人営業において、展示会出展や客先訪問といった対人的な接触を伴う営業活動がほとんどできなくなり、多大な影響が出ています。客先へのプレゼンや商談、顧客フォローといった一連の活動はリモートで行うことを強いられる場合が多くなるため、テレワーク用ツールに慣れておくことは、営業活動の継続に役立ちます。

小売業やサービス業でも、直接的な接客が極めて困難な状況が続く中、顧客の維持・拡大のためにオンラインの活用に踏み切る例が増えています。筆者の支援先でも、酒類の販売業で「オンライン酒蔵見学」を開催する、ヨガ教室で「オンラインヨガ教室」を実施するといったケースが見られます。このような取り組みを実践するためには、やはりテレワーク用ツールに慣れておく必要があるでしょう。

テレワーク用のツール(目的別)

では、テレワークを導入するにあたり、どのようなツールを導入すればよいのでしょうか。以下では、主な目的(用途)ごとに、ツールを例示しますが、ツールの取捨選択はご自身でなさってください。

下記の多くはクラウドサービス(インターネットを通じて必要なサービスを利用する)かつサブスクリプション(月額いくらや1人あたりいくらで課金する)のツールです。

なお、国の「IT導入補助金」ではクラウドサービスの利用料が、「川崎市テレワーク導入促進補助金」ではそれに加えてパソコンやタブレットなどの購入費も補助対象となりますので、これらの補助金を活用するのも一手です。

(1)   書類などのファイル共有

一般に「クラウドストレージ」と呼ばれるサービスが便利です。「インターネット上の共有ハードディスク」として使え、データをいつでもどこでも取り出すことができます。履歴を管理する機能があるサービスを選べば、「誰かが新しいファイルを古いファイルで上書きしてしまった」などのトラブルを防止することもできます。

(ツールの例)

  • Dropbox

 https://www.dropbox.com/ja/

  • One Drive

 https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/onedrive/online-cloud-storage

  • Googleドライブ

 https://www.google.com/intl/ja_ALL/drive/

(2)   顧客に関する情報共有

クラウド型の顧客管理サービスが便利です。これまで手書きのノートやExcelのシートで管理していた場合、見込客や取引先の名簿、自社とのやり取りの履歴などを一元管理できるようになり、従業員の自宅や外出先からも入力・編集が可能になることから、業務効率が大幅に高まることが期待できます。

(ツールの例)

  • Sansan

 https://jp.sansan.com/

  • SkyDesk CRM

 https://www.skydesk.jp/ja/

  • kintone

 https://kintone.cybozu.co.jp/

(3)   販売管理

見積・受発注・納品・請求・入金など、販売に関する一連の流れを管理するツールです。物理的なモノの納品を伴うか、在庫を持つかなど、業種・業態によって必要となる機能が異なるので、自社に適するサービスを選ぶ必要があります。

(ツールの例)

  • board

 https://the-board.jp/

  • SpreadOffice

 https://www.spreadoffice.com/

  • SmileWorks

 https://www.smile-works.co.jp/

(4)   コミュニケーションの円滑化 その1(Web会議システム)

テレワークでは、関係者全員が物理的に1箇所に集まらないため、顔を合わせた会話ができないことを不安に感じたり、他のメンバーが周りにいないため、孤立感が高まったりする可能性が高まります。そこで、遠隔で顔を見ながらコミュニケーションができるツールとして、Web会議システムが有効です。もちろん、社内での意思決定の会議や、社外への営業活動などにも使うことが可能です。

(ツールの例)

  • Zoom

 https://zoom.us/jp-jp/meetings.html

  • Microsoft Teams

 https://www.microsoft.com/ja-JP/microsoft-365/microsoft-teams/group-chat-software

  • Google Meet

 https://apps.google.com/intl/ja/meet/

(5)   コミュニケーションの円滑化 その2(ビジネスチャット)

LINEやショートメッセージのビジネス版にあたるコミュニケーションツールです。LINEと比べて、高度のセキュリティ、アクセス権の設定の簡便さ、検索の容易さなど、多くのメリットがあります。チャットの手軽さがテレワークの心理的ハードルを下げる効果があり、コミュニケーションの円滑化に役立ちます。

(ツールの例)

  • slack

 https://slack.com/intl/ja-jp/

  • Chatwork

 https://go.chatwork.com/ja/

  • LINE WORKS

 https://line.worksmobile.com/jp

テレワーク導入で注意したい点

上述のように、テレワークにはメリットがたくさんありますが、導入にあたって注意したい点もあります。

(1)   自社の業務の見直しと最適なツールの導入

コロナ禍で時間に余裕がないこともあってか、十分に検討しないままテレワークを始めてしまうケースが散見されます。テレワークの導入は、業務のムダをなくすための絶好の機会でもあります。自社の業務フローを俯瞰的に見渡し、本当に必要な業務を見定めたうえで、それを効率的に行うのに役立つツールを選定することが大切です。

(2)   社内規則の整備

例えば、従業員の自宅も「就業場所」として認めるのであれば、その旨を就業規則に明記しなければなりません。他にも、「どうやって労働時間を適正に把握するか」や「業務上のやりとりに必要な通信費は誰が負担するのか」など、あらかじめ決めておかなければならないことが多々あります。必要に応じて社会保険労務士に相談するなどし、準備をととのえてください。

(3)   セキュリティ対策

特に従業員が個人持ちの機器で会社の業務を行う場合、コンピュータウィルスの感染や情報漏洩などのリスクが高まります。テレワーク実施前に社員教育を行い、情報セキュリティに対する意識や知識を向上させておくことが欠かせません。

(4)   従業員のメンタルヘルス

知人の医師によると、テレワークが長期化する中で、メンタル不調を訴える人が増えているそうです。物理的に人と離れた状態が続くことで、人によっては心理的な不安感が増すかもしれません。

従業員に対しては、適度な運動などでリフレッシュする時間を持つよう仕向けたり、Web会議システムのやり取りで「元気がない」「ネガティブな発言が多い」などメンタル不調の兆候がある方は速やかにフォローしたりといった配慮が必要です。

また、従業員が業務とプライベートを明確に区別でき、過度なストレスが溜まらないようにするため、「業務時間外は基本的に連絡をしない」、「飲み会など業務外の連絡には業務用のツールを使わない」など、ルールを決めておくことをお勧めします。

おわりに

紙面の都合上、個々のツールの詳しい解説や比較は割愛させていただきましたが、具体的に自社ではどういったツールを導入すればよいかなど、ご相談されたい方もいらっしゃることでしょう。

当会では、川崎市中小企業サポートセンターを通じて、無料で相談対応やアドバイスを行っておりますので、ぜひご利用ください。

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