今こそ取り組みたいBCP(事業継続計画)

中小企業診断士 新井 一成

アフターコロナの企業経営

近年台風を始めとした自然災害による被害が多発しています。過去5年間に激甚災害指定を受けた災害は、台風関係14件、その他水害4件、地震2件となっており、台風や水害の数が非常に多くなっています。昨年(2019年)の台風15号・19号では、川崎市内でも大きな被害が発生し、多くの市民、企業が影響を受けたことは記憶に新しいところです。

さらに今年に入ってからは、新型コロナウイルス感染症の発生により、社会・経済活動が大幅に制限されることになりました。特にウイルス感染の影響は全世界に広がっているため、足下の需要消失や勤務環境への影響だけに留まらず、グローバルなサプライチェーンの分断を招き、多くの企業で非常に困難な経営を余儀なくされています。

従来から災害に対応するための事業継続計画に取り組んでこられた企業は多いとは思いますが、今回のウイルス感染症のように、物理的な被害は無いものの、長期間にわたって、従業員の勤務が制限されるような状況に対して準備が整っていた企業は少なかったのではないでしょうか?

アフターコロナの企業経営には、従業員の働き方を含む事業継続計画の策定が必須となります。そのためには、災害発生時だけではなく、平時からの働き方の見直しも必要となってきます。

事業継続計画の基本

事業継続計画を策定するにあたって、考慮すべき重要事項は以下のように整理できます。

①従業員の安全確保

企業の存続を考えた場合、まずは従業員の安全を確保する必要があります。災害が発生したときに従業員が社内にいる場合以外に、外出先で災害に遭遇する場合や夜間休日など、自宅で災害に遭遇する場合なども考慮が必要です。いずれの場合にも従業員の安全をいち早く確認し、必要な処置をとる必要があります。

さらに、災害の影響が長期間におよぶ場合などは、従業員の雇用を守ることも、安全確保の一環と言えます。

新型コロナウイルス感染症では、従来の災害と異なり、従業員を出社させること自体にリスクが生じ、さらにその影響が数ヶ月にわたって継続しています。今後は、このような事態にも備えることが求められます。

②顧客の事業継続

企業は顧客に対して商品やサービスの供給責任を負っています。災害の影響により商品やサービスの供給が途絶えた場合は、顧客の生活や事業の継続が困難になってしまいます。そこで、災害発生後にいかに早く商品やサービスの提供を回復できるかが重要となります。

特に、自社の商品やサービスが社会の重要インフラに利用されているような場合には、企業の社会的責任としても、その供給を守る必要があります。

新型コロナウイルス感染症では、飲食業やイベント業のように、商品の提供自体にリスクが生じ、商品提供が出来なくなりました。しかしながら、引き続き楽しく食事をしたい、イベントで楽しみたいという顧客の需要が無くなったわけではありませので、その需要に対して、何らかの形で応えることも、企業にとって広い意味での事業継続の一環であると考えることもできます。

③サプライチェーンの確保

仮に自社が直接被災しなかったとしても、必要な資材やサービスの供給元の企業が操業停止してしまった場合には、自社の事業継続が困難になります。このような事態に対して対応方法を事前に策定することも、事業継続計画の一部となります。

供給元企業を複数持つなどが、一般的な対策になりますが、東日本大震災の後で、下流企業が被災した上流企業(供給元企業)に応援を出したことがありました。このような対応も、事業継続計画の中で検討しておく価値があります。

さらに新型コロナウイルス感染症で改めて認識されたように、グローバルに拡大したサプライチェーンでは海外の上流企業の被災にも対応が必要となる場合があります。自社の上流のサプライチェーンにどのようなリスクがあるか、事業継続計画を通じて日頃から確認しておくことが望まれます。

④資金繰り

災害後の対応には一時的な資金が必要になります。自社が被災した場合には、自社の収入が一時的に止まってしまうため、復旧のための資金に加え、買掛の支払いや従業員への給与などの運転資金も必要になります。実際に資金繰りが行き詰まってからでは手が打てなくなりますので、早めに資金調達を行う必要が生じます。事業継続計画の中で、事前に資金繰りの余裕を見極めておくことも必要です。

災害発生時には行政の緊急融資や給付金などが行われることが多いので、事前に見込んだ余裕を超えると予想される場合には、これらの支援施策を早めに申請することが必要となります。資金繰りに行き詰まってから手を打っても、手続き等の時間が掛かるために間に合わない危険性があります。

平時の対応

平時においては、事業継続計画に沿った災害対応の訓練を行い、また事業継続計画の継続的な見直しが必要となります。

さらに、新型コロナウイルス感染症への対応の中では、従来の考え方では対応できない事態が生じました。事業継続計画では、比較的短期間のうちに災害の影響が収束することを想定することが一般的でした。感染症に対応した事業継続計画でも、感染した従業員は一時的に休業するものの、回復して勤務に復帰することを想定しています。しかし、今後の事業継続計画では、新型コロナウイルス感染症のように、健康な従業員でも出社すること自体がリスクとなり、出社できない状態が長期におよぶ、ということも想定することが必要になります。

技術的にはテレワークなどの手段が利用可能ですが、実際には従業員が会社にいない状態でも、業務を継続するためには、平時から業務プロセスを見直し、テレワークが可能な状態にしておく必要があります。さらには、テレワークにおける従業員の評価方法が課題となっているように、人事評価制度も見直す必要が生じてきます。

アフターコロナ時代の事業継続計画の策定には業務プロセス改革も含めた対応が必要となってきます。

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