コロナ後のニッチ市場成長の可能性 ~中小企業のチャンスか~

中小企業診断士・公認内部監査人・公認システム監査人 入谷 和彦

新型コロナウィルスの影響は、特に日本では、その症状や死亡者数に比べて、経済に大きな影響を及ぼしています。企業経営にとっては、コロナ後がどうなるか、真剣に考えていく必要があります。コロナ後のビジネスや経済がどのようになるか、いろいろな方が発言されていますが、本稿では、「ニッチ市場拡大の可能性」について取り上げたいと思います。

1.これまでの「もの」の市場

50年以上前の高度成長期から20年ほど前まで、「もの」の流れは大企業が主導してきました。大きな資本によって、大きな工場を作って大量生産を行い、大きなサプライチェーンと販売経路を構築し、大量に「もの」を流通させて、消費者に届けてきました。このための広告も、テレビ、雑誌等々の巨大メディアを使い、莫大な費用をかけて行われてきました。

中小企業は、個別の店舗以外は、「もの」の流通では大企業に太刀打ちするのが難しく、大企業の下請けとして活動するケースが目立ちました。それでも、安定した受注があるうちは、中小企業の経営も順調に推移しました。

しかし、新自由主義によるグローバリゼーションの影響で、大企業は世界と競走するために、製造拠点を海外に移したり、国内の販売だけではスケールメリットが得られなくなって海外市場の開拓を行いました。こういった動きの中で、多くの中小企業が蚊帳の外に置かれてしまい、自ら製品を開発し、自ら販売することが求められました。頑張っている企業もありますが、苦戦している中小企業も少なくありません。

それが、ここ数年で、大きく変わりつつあります。そしてこの傾向は、コロナ後にさらに加速すると思われます。

2.大きく変わった「もの」の流通 ~「ニッチ市場」の成長~

まず、消費者の消費性向の変化があります。日本はもともと同調圧力が強いですが(コロナ禍ではこれが奏功しましたが)、かつては消費性向も同調圧力にさらされ、みんなが同じものを欲しがりました。AさんもBさんも持っているから、私も買おう、という消費性向です。

しかし、21世紀になった頃から、消費性向が変化してきました。生活に必要なものは多くの人が入手できるようになりました。おそらく有史以来初めて「買いたいものが無い」なんて言葉も生まれました。そして消費者は、他の人と同じものではなく、自分だけのものを求めるようになりました。これが少数の人だけが求める「ニッチ市場」の存在につながります。もちろん、大企業による大量生産・大量販売の市場はこれからも存在します。一方で、少数の消費者向けの「ニッチ市場」は、昔もあることはありましたが、ここ10年くらいで大きく成長しています。特徴のある化粧品、衣料品、食品、雑貨等々です。中にはオーダーメイドの化粧品・コーヒー豆を販売している例もあります。

「ニッチ市場」は、規模が小さいですから、生産コストを下げるのは難しいです。しかし、価格の影響力が大量生産品よりも弱い傾向もあります。本当に自分が欲しいものであれば、多少高くても買い求める人が多いからです。

「ニッチ市場」が成長したのは、それを支えるインターネットを基盤とするインフラが整ってきたことも影響しています。

①スマホの普及
 誰でもスマホで簡単に欲しいものを探して、簡単に注文することができるようになりました。
②宅配の普及
 日本の90%以上の地域で、注文したものが1~3日で自宅に届く物流網ができました。
③インターネット広告の普及
 これは後述します。

「もの」を作る現場もこれに合わせてすこしずつ変化しています。どの製造業でも小ロットの多種少量生産は今や当たり前です。3Dプリンターの普及も小ロットへの対応に効果があります。またグローバリゼーションの逆の側面で、国内で製造したらコストがかかる小ロットのものが、海外で安く作れる場合があります。多少高くても品質の高いものを国内で作る、あるいはそこそこの品質のものを海外で安く作る等々様々な選択肢があります。

なお、 書籍、音楽、ゲームといったものは、オンライン配信によって、物流そのものが不要になりました。製造コストもほとんどかからない訳で、総販売数が数百個でも、収支のバランスがとれるようになってきました。

3.インターネット広告

最近、創業相談の窓口では、インターネット・マーケティングやインターネット広告の事業で独立しようとする人が増えています。総じて、中小企業相手の事業で、中小企業のマーケティングに貢献して、成長のサポートをしたいという前向きな取り組みです。

「ニッチ市場」でも、その製品や商品の情報が、それを欲しがる消費者に届かなければ、購買行動は起きません。そのために行うのが広告です。インターネット広告の世界では、ホームページのサイトのことをメディア(広告媒体)と呼んでいます。世の中には様々なサイトがあり、自分が興味のあるワードで検索すると、沢山のサイトが表示されます。ここをクリックして情報を得るわけですが、広告も表示され、購買に興味がある人は、これをクリックすれば、商品の販売サイトにたどり着きます。

ある商材のマーケティングを行う場合、それを求める人はどんな人か、そういうターゲットに届くには、どんなメディアを経由すればいいか、どんな見せ方をすれば買ってもらえるかを考え、それに合ったメディアや広告方法を駆使して、何とか販売につなげようとします。

インターネット広告の業務の一つは、その製品・商品のマーケティングに適したメディアを探し、広告枠を確保する広告代理です。制作する広告には、動画、インフルエンサー、漫画やゲームとのコラボ、薬品・化粧品ではその効能を科学的に説明、技術的なものならばその優位性をわかり易く説明したもの等、あらゆる方法が使われ、日夜進化しています。

インターネット広告では、販売用サイトへ誘導するクリックの度に課金(広告主がメディアに広告費を支払う)するリスティング広告が多いですが、中には購買までたどりついた際に課金されるものもあります。

インターネット広告の広告費総額は、テレビや雑誌等のマスの広告媒体の広告費総額を上回ったという報告もあります。マスの媒体を使った広告が、数億円、数十億円かかるのに比べ、インターネット広告なら数百万円程度で効果が得られます。インターネット広告の総額の増大に合わせて、これらを扱う人の人口が増えています。

4.コロナ後の傾向

コロナ禍で、テレワークや外出自粛によって、消費者の多くは家にこもるようになりました。唯一の外界との接点がSNSを含めたインターネットだったりします。そして、購買行動もインターネットによるものが増えました。多くの人が、スマホで欲しいものを探し、簡単に注文できて宅配される便利さを改めて実感しました。これに伴って新たな「ニッチ市場」も誕生しました。

インターネットによる購買行動は、コロナが収束して、人々が普通に外出するようになっても、減少しないと思われます。自分が本当に欲しいものを探し、簡単に入手できることを一度実感してしまうと、ここから離れることは考えにくいからです。そして、かつてはインフラが不十分で成長しなかった「ニッチ市場」は、今後も成長すると考えられます。

5.中小企業のマーケティングの可能性

これまで中小企業は、優れた「もの」を作っても、その販売方法が見つけられず、満足に販売することができないケースが多くありました。多くの場合は、その「もの」を欲しいと思っている人に情報を届ける方法が無かったことが原因です。

今は、インターネット広告による「ニッチ市場」の創設が安い費用で可能となり、中小企業が効果的なマーケティングを行う環境が整ってきたと言えます。これがコロナ後は加速し、中小企業のマーケティングに有利な状況になっていきます。「ニッチ市場」は大企業が参入するのが難しいため、規模の競争の影響を受けにくい面もあります。

こうなると、勝負はビジネス・アイディア次第になります。中小企業でも個人事業主でも、優れたアイディアがあれば、数千個のロットの「ニッチ市場」で、それを製造し、販売して、消費者に届けて、収支のバランスをとれる可能性が開かれています。これまで規模の競争で敵わないために諦めていたものでも、市場で販売することができます。

工業製品も例外ではありません。優れたアイディアや技術があれば、それをビジネス化するハードルが大きく下がるのが、コロナ後の世界です。これは、中小企業にとってのチャンスだと思います。

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