コロナ禍で借りた資金をどう返済するか
- 2021/7/1
- 診断士の視点
中小企業診断士・証券アナリスト 金森 亨
本稿のタイトルは「コロナ禍で借りた資金をどう返済するか」ですが、死んでも返済を最優先しろと言っているわけではありません。借りた資金を返済するためにはまず事業を回復させる必要があります。回復すれば返済できるからです。事業回復なき借入返済は何の意味もありません。目的はあくまで自身の事業を軌道に戻して採算を回復することです。返済の為に回復するのではなく、回復すれば返済もできる・・・という順序で考える。これを前提にどう対処すれば良いかを見ていきましょう。
1.急ぎの事情~コロナ禍緊急借入れ
コロナ禍で経営難に陥った企業を資金面から支援する施策が次々と打ち出され、多くの中小企業が借入を増やしました。しばらくすると、全国銀行と信金の総貸出残高は大きく膨らみ、2020年8月の平均残高は573.8兆円と、前年同月に比べて6.7%も増加しました。2019年の各月の平均残高の前年同月比単純平均は2.2%の増加でしたから、この数字がいかに大きいか分かるでしょう。今はとりあえず生きておかなければなりませんから仕方ありません。
2.資金の使い道~事業回復には使い道を前向きに変える
(1)使い道が分からなくなってしまうと
皆さんはこの借りた資金、何に使いましたか。給与や家賃、仕入代金支払いに充てた・・・などでしょう。財務では運転資金と言います。しかし、この運転資金が曲者。なんでもかんでも大雑把に括ることができるとても便利な区分名で、具体的な使い道を指していません。だから、「運転資金として使いました」と言っているうちに、実は何に使ったのか分からなくなってしまうということがよくあります。使い道が分からなくなった資金は死に金。たとえ資金繰りが回っていてもゾンビ同然です。だから資金の使い道をきちんとしておくことはとても大事なのです。
(2)資金の使い道を明らかに~「カネに色はついてない」はウソ
同じ運転資金でも販売見込みのある仕入代金や働いたら売れる見込みのある給与支払いは正常です。しかし、コロナ禍では販売見込みが立ちません。だから使い道は赤字補填です。まず真摯にそこを認めましょう。その上で、使い道を改めて明確にします。使い道の不明確な資金はかならず雲散霧消して事業に活かされず、したがって事業回復も返済も見込めないからです。「カネに色はついてない」はウソです。いちいち色を付けて使い道をはっきりさせるべきです。
(3)正しい使い道を、赤字補填と事業補強の二本立てで考える
そこで、使い道を赤字補填と事業補強の2つに分けて考えましょう。赤字補填は過去で後ろ向き、事業補強は未来で前向きです(図1参照)。
まず事業補強です。コロナ禍で窮境に陥ったままでは困りますから、将来にむけた事業補強にカネを使うのです。その方法は次項で説明します。
次に赤字補填です。もう使っちまったからいまさらというなかれ。これを前向きに捉え直さなければいけません。何の支払に充てたか記録していればすぐできるはずです。例えば、仕入資金は当面の販売見込みは立たないが、「コロナ終息後の販売を〇〇円見込む」と捉え直します。また、給与は「コロナ終息後の経済回復期には採用困難になるだろうからそのリスク回避」と・・・。こじつけでもかまいません。
3.事業見直しと返済原資の捻出
(1)事業を見直して返済原資捻出できる仕組みを作る
事業補強に資金を使う方法は戦略から考えます。コロナ終息後は以前とはすっかり環境が変わっているでしょう。環境変化は商売ネタの宝庫です。新しい環境では、「誰に」「何が」売れるかを洗い出しましょう。アイディア勝負です。次にそれを「どうやって」作って売るかを考えます。事業ドメインの3要素と言われます。でもこれだけでは足りません。必ず採算に乗せる必要がありますから、これに「いくら」を第4の要素として加えます(図2参照)。難しいのは「どうやって」です。「いくら」はもっと難しいので、後述します。
(2)見直しで発見した不足する経営資源を補強するために資金を使う
「どうやって」は文字通り〇〇の為にはどうやって何をすればいいかをどこまでも掘り下げる方法で考えます。例えば、販売する為に良い物を作ってPRする(販促機能)。良い物にする為は品質改善する(製品開発機能)。品質改善する為に高性能装置を導入し(生産機能)、かつ生産技術を開発する(技術開発機能)。併せて良質な原材料を調達する(材料調達機能)・・・です。これをつなぎ合せたのが図3です。私はこれを機能連携図と呼んでいます。機能同士が前工程→後工程と連携している姿を表しています。現実にはこんな単純ではありませんし、こんなに一般論的でもありません。あくまでイメージとして捉えてください。
図は全て「〇〇機能」という機能を表す名前でつながっています。それぞれの機能は経営資源が担います。例えば、生産機能は生産設備という有形の経営資源が機能を発揮してその役割を担っていというわけです。経営資源はなにも有形の資産だけではありません、技術開発機能や製品開発機能は有能な人材がこれを担っていると言えるでしょう。 有形・無形に関わらず、機能連携図で示す機能が連携し合って役割を果たすには確かな経営資源を確保しなければなりません。不確かな、もしくは欠損している経営資源があるならそれを確かなものにする必要があります。そこに資金を投入する。これが前向きの資金の使い道です。この機能連携図と不足する経営資源の特定、補完に必要な資金量を明らかにして銀行に行けば、だいたいは納得してくれるはず。融資審査で一番大事なのは資金使途(使い道)だからです。そして、使い道がしっかりしている借入資金は必ず事業に活かされ、返済原資も生まれるからです。
4.採算管理の方法
採算は3段階で考えましょう。第1段階は単年度黒字化、第2段階は累積損失一掃、そして第3段階は借入金の返済目途です。ただし、借入金の返済目途はキャッシュフローの問題なので、前2段階とは少し切り口が異なりますから注意してください。
ところで、採算に乗っていることを説明するためによくやるのが「鉛筆舐め舐め」です。例年の売上の5%くらいは増加するだろう・・・などと、鉛筆を舐めて収益計画を作る方法です。これは駄目です。せっかく上で事業補強戦略を練ったのに、数字となると途端にこの戦略を離れて鉛筆を舐めてしまう。これでは意味ありません。そもそも例年とは違うことをやろうというのだから「例年」は参考になるわけがありませんね。練った戦略の行動の1つ1つをきちんと財務言語に逐次翻訳してやるのです。 ごく大雑把に言うと、「誰に」「何を」は売上高に関連付け、「どうやって」は費用に関連付けます。実際にはさらに緻密さが要求されますが、紙面の関係上割愛します。
ここまで、コロナ禍で借りた資金を返済するためには自身の事業を補強して回復させなければならないこと。その為には、資金の使い道を前向きに切り替え、戦略を実現するのに必要だが不確かな経営資源を特定してそれを強化する為に使うことを述べてきました。これは一般論です。当然、戦略は個々に異なりますから、ここから先は皆さんの番です。環境変化をしっかり捉えて、コロナ禍を生き延びる思いを遂げましょう。