アフターコロナを見据えた採用戦略
- 2021/7/1
- トピックス
中小企業診断士・社会保険労務士 髙橋 真輔
有効求人倍率の動向
コロナ禍により、有効求人倍率(※1)が大きく低下しています。厚生労働省の一般職業紹介状況によると、平成30年度の有効求人倍率は1.62倍(全国平均、パート含む)でしたが、直近の令和3年4月は1.09倍まで低下しています。また、各種データを見ても、「人手が不足」と回答する企業の割合は減り、「人手が適正、過剰」と回答する割合が高まっています。
コロナ以前は、「ハローワークに求人を出しても全く応募がない」「人材紹介会社に高いフィーを支払って何とか採用している」という声をよく耳にしましたが、採用環境は変わりつつあります。
※1:求職者に対する求人数の割合であり、有効求人数を有効求職者数で除して得たものを有効求人倍率と言う。数字が大きいほど、求職者に有利となる。
アフターコロナの有効求人倍率は?
コロナ禍で、旅行業や飲食業など業績が悪化した業種もあれば、ITや巣ごもり消費関連など業績が好調な業種もあります。そのため、業種によって人材ニーズは大きく異なっていると思われます。たとえば、東京労働局が公表している求人求職バランスシートを見ると、「接客・給仕の職業(一般常用)」の有効求人倍率は、平成30年9月には8.82倍でしたが、令和3年4月は1.71倍と「約5分の1」に低下しています。
このようにコロナ禍の現在は、業種や職種によって有効求人倍率のトレンドも大きく異なります。しかし、現在は業績が悪化している業種であっても、人的・経済的活動が戻れば需要が高まり、人材ニーズも再び高まると考えられます。また、これまで有効求人倍率が上昇してきた要因の1つとして、「少子高齢化」を挙げることができます。少子高齢化は、日本が抱える「構造的な問題」ですので、アフターコロナ後も変わりありません。つまり、アフターコロナの時代には、再び有効求人倍率が高まり、「採用難」となる可能性が高いと考えられます。
未経験求人が減っている
2020年9月3日の日経電子版によると、「転職サイトでは未経験者歓迎の案件の比率が、新型コロナウイルスの感染拡大前の8割から直近は5割まで下がった。」とあります(一部引用)。企業はコロナ禍の現在、「即戦力」を求めているということです。これを求職者目線で考えると、「キャリアチェンジをしたいが、未経験求人が少なく転職できない」ということなります。コロナ禍により、業績の悪化している業界を中心に、思い切ったキャリアチェンジを考えている労働者は多いと思います。しかし、現実には、それを充足するような求人は少ないという訳です。
以上を要約しますと、次のようになります。
- コロナ前は高止まりしていた有効求人倍率が、コロナ禍で低下している
- 業種や職種によって、人材ニーズには大きな差が生じている
- 国内の少子高齢化の状況は変わらず、長期的な人手不足の傾向は変わらない
- コロナ前は未経験求人が増えつつあったが、コロナ禍で未経験求人は減っている
アフターコロナを見据えた採用戦略
以上を踏まえますと、コロナ禍の現在は、「採用のチャンス」と考えることができます。採用における競争環境は緩やかであり、普段は転職市場に出てこない人材に巡り合える可能性があります。特に未経験求人が減っているので、キャリアチェンジを考えている優秀な人物を採用する絶好のチャンスです。余力のある今だからこそ、採用した社員をじっくりと時間をかけて育成する良い機会でもあります。なお、経験者の採用も十分可能と思われますが、能力や業界経験を重視し過ぎると人物面の見極めが疎かになり、後に苦労することも多いので注意が必要です。
ワクチン接種が始まり、コロナの終息も現実的になりつつある今こそ、アフターコロナの戦略を立てる時期に来ているのではないでしょうか?特に採用戦略は、「他社に一歩先んじた」アクションが重要と考えます。周囲が採用を活発化させる頃には、再び採用市場は激戦となり、人材確保に苦労すると思われます。
雇用調整助成金との関係
「従業員数が増えると、雇用調整助成金が支給されなくなるのでは?」と心配される方もいらっしゃると思います。本稿執筆時点(6月初旬)で、8月以降の雇用調整助成金がどのようになるのか示されていません。しかし、現行のコロナ特例が維持されるのであれば「雇用量要件(※2)」は適用されないため、採用により従業員数が増えても他の要件を満たす限り、雇用調整助成金は支給されます。
また、雇用調整助成金は単に休業させる場合だけでなく、「教育訓練」を行った日についても対象となります。つまり、採用した社員に教育訓練を行いつつ、その者について雇用調整助成金を申請することもできます。なお、教育訓練の場合は申請がやや複雑ですので、申請の際はガイドブックやマニュアルをよく確認する必要があります。
※2:雇用保険被保険者数及び当該事業所で受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標の最近3か月間の月平均値が前年同期に比べ5%を超えかつ6名以上(中小企業事業主の場合は10%を超えかつ4名以上)増加していない事業所の事業主であること。