お客様を呼び込もう~顧客導線の作り方~

中小企業診断士 児玉 仁勝

1. 本記事の構成

はじめまして、中小企業診断士の児玉と申します。本記事は顧客導線を作ることを目的として3つの部分で構成されています。一つ目が店舗訴求力について、二つ目が顧客の購買行動の理論について、そして三つ目が具体的なアプローチについてです。また内容をイメージしていただくために、私の前職である眼鏡チェーン店(路面店の店長)での経験を事例として載せております。

本記事は基礎的・古典的な内容となっております。「バズる」ことは望めないかもしれませんが、店舗のファンを掴むきっかけの一つにはなれるかと思います。この内容が貴店の発展の一助になれれば幸いです。

図1.本記事のイメージ

2. 店舗訴求力

顧客を呼び込むためには、店舗の特徴を消費者に知ってもらわなければなりません。そのために、まずストアコンセプトを作りましょう。コンセプトとは「誰に・何を提供するのか」ということで、このコンセプトに沿って店舗の雰囲気や商品構成、サービス内容を考えます。そうすると、店舗にテーマ性が生まれ、特定のお客様の感性に「刺さる」店舗となり、口コミやリピート利用に繋がりやすくなります。既に店舗を構えている場合でもコンセプトは設定可能です。まず自分たちが出来ることや特徴を並べてみて、そこから誰に何が出来るのかを考えてみましょう。そして新しい要素を足したり既存の要素を変えたりしてストアコンセプトを再構築しましょう。

コンセプトが出来上がったら、次に競合店調査に出かけましょう。ここでの競合店とは、移動可能な範囲で似たターゲットやコンセプトを持つ有名店を指します。お客様はその有名店を思い浮かべながらあなたの店舗を評価すると思ってください。ですので、競合店調査の結果に基づいて、模倣可能なところは出来るだけ真似をする、勝てるところは際立たせる、逆に適わない部分は諦めるといった対応を取っていきます。

私は、赴任した店舗でメインターゲットを高齢者から40・50代男性に変えました。販売実績や地域の人口構成からこの層を伸ばせる可能性があると感じ、また従業員の力量から訴求可能と判断したからです。そしてこの層が求めることを「納得して買いたい」こととし、信頼性をメインの提供価値としました。

それから近隣の乗換駅にある某眼鏡ブランドの専門店に通いました。店舗の内装のおしゃれさでは到底適いませんが、商品構成は上司を通じて多少変えてもらいました。次に身だしなみをこれまでより厳しくし、商品説明の内容では一部を取り入れました。顧客の目線では有名店で出来ていることが出来ていなければ信用できないと判断されると思ったからです。そしてどの店舗よりも納得していただけるように、視力測定と各種の説明の丁寧さには拘りました。  そのようにして、「40・50代男性をメインターゲットに、信頼性を提供する眼鏡店」を作りました。

3. 購買行動の理論

① AIDMAプロセス

AIDMAとは、Attention(注目)、Interest(興味)、Desire(欲望)、Memory/Motive(記憶/動機)、Action(購買)の5段階の購買行動の頭文字のことであり、一般的に消費者はこの行動を辿って購買を行なっているとされています(Mに関しては複数の考え方があるので代表的なものを載せています)。商品を知ること、特定の商品に興味を持つこと、知ったらだんだんと欲しくなること、そのことばかり考えてしまうこと/買うきっかけを持つこと、そして購入すること。皆さんも何かを購入するときにこのような体験をされたことがあると思います。お客様もまた同じような体験を辿ってレジの前に立っています。これがAIDMAプロセスです。

図2.AIDMAプロセス

最終的に購入を決断するのはお客様ですが、私たちはこの購買プロセスを前に進めるアプローチをすることは出来ます。「知らないなら知らせる」「知っているだけなら興味を持ってもらう」など、店舗の全ての要素をこのプロセスに沿って、先に進めることを目的にデザインしてみてください。

そしてこのプロセスの最も大事な部分は「Attention」です。知らなければ購買に至りません。貴店が10年20年続いているとしても地域住民の1~4%程度が1年間で入れ替わってしまいます。店舗側から「ここにいるよ」と言い続けなければ、存在を知らない新しい住民が増えていくと思いましょう。また商品であれば最も売りたい商品は、必ず目につく場所に置くと良いでしょう。

少しわき道に逸れますが、新規顧客の開拓コストは既存顧客維持コストの6倍かかると言われています。そのため既存顧客の流出防止が重要になるのですが、これは新規顧客の獲得努力を軽んじることではありませんので気を付けましょう。

② 7段階の購買心理

7段階の購買心理とは、「注目・興味・連想・欲望・比較・確信・決断」の購買決定に至るまでの7つの心理状態を表したもので、AIDMAプロセスとも似ています。大きな違いは連想と比較が入っていることです。例えば家電の購入検討時にそれを使っている情景を思い浮かべて感情を高めたり、また選ぶ際にはスペックや色、価格などを比較して悩んだりといったことはないでしょうか。このようなこころの動きが7段階の購買心理です。

店舗ではVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)などによって、この心理を掻き立てる工夫を凝らします。特に「連想」と「比較」は消費者にとって買い物の醍醐味ですので、商品を組み合わせて、使うシーンを想像させたり、商品選びを悩ませたりしてあげてください。大いに想像して大いに悩んだ買い物はそれだけで満足感に繋がります。ただし選択肢の数は多くなり過ぎないようにご注意ください。

図3.7段階の購買心理

4. 具体的アプローチ

① 顧客の視線を意識した配置

昔から小売業にはゴールデンラインと呼ばれるものがあります。100㎝~140㎝程の高さが消費者の目に留まりやすく手に取りやすいので、売れる・売りたい商品はその範囲に陳列するといいというものです。これを基本としながらも商材や什器によって多少の変更をするのですが、その検討要素に消費者のことを加えて欲しいのです。子供玩具のトイザらスは、商品の位置を子供の目線の高さに置き直すことで売上を伸ばすことに成功しました。同じように貴店の大事なお客様を想定し、この方々にとって見やすく・手に取りやすいということはどういうことかを考えてみましょう。

話を眼鏡店に移しますが、眼鏡店に来店するお客様の主な理由は「今のメガネが見えづらくなったから」です。ただし視認性を高めたくても商品を大きくすることは出来ませんので、代わりに商品カテゴリーの掲示を大きくし、ポスターなどを使うことによって、多少視力が落ちた人でも入口から一目でどこに何があるのか分かるようにしました。また、女性をターゲットにした場合は、女性スタッフの意見を頼りにしましたが、自分でも膝を曲げて目線を低くして店舗レイアウトや配置を考えました。また店舗内だけでなく、「店があることを知らない通行人」を想定してどうしたら店舗に気づくか、何メートル先から気づくかということにも拘りました。

② 「~しやすさ」の追求

本記事での「~しやすさ」とは、「見やすさ」「手に取りやすさ」「選びやすさ」の三つを指します。見やすさではセールスポイントの視認性の他に、ディスプレイ全体が整然となっているか、調和がとれているかも検討しましょう。また買回品や専門品であるならば、商品陳列の1㎜のズレや1度のズレが気になるようにしましょう。次に手に取りやすさにも気を付けましょう。平置き陳列では華がないと凝ったディスプレイにした結果、お客様がそれを崩すのを恐れて誰も触れようとしなくなったという話があります。決してビジュアルで魅せることを否定するものではありませんが、あくまで商品特性を考えて陳列しましょう。そして選びやすさでは顧客属性や商品属性などの大分類、ブランドや用途などの中分類、色や価格などの小分類など、商品を分類し選ぶ流れに連続性を持たせてレイアウトや配置を決めると、お客様にとって選びやすい売場にすることが出来ます。

5. 最後に

もちろん実際にはこれらだけでなく、通路の幅や照明の色・明るさなど様々なことが工夫する要素となります。ただし今回ご紹介しました内容をベースに考えていただければ応用可能だと思います。
最後に、本記事では顧客行動について色々述べてきましたが、大事なことはお客様に買い物を楽しんでいただくことや喜んでいただくことですので、それを第一に日々頑張っていきましょう。

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