従業員の成長や組織を活性化させる「斜めの視点」
- 2021/10/1
- 診断士の視点
中小企業診断士 伊藤 實啓
縦・横・斜めの人間関係
私たちは、家庭や学校、趣味のサークルなどを通じて、いろいろな人たちとの関係を構築してきました。社会人になっても、上司と部下、同期や同僚などとの関係性のもとで、企業で日々の業務に取り組んでいます。そのような人間関係を細かく分けてみると、よく知られている「縦の関係」と「横の関係」のほかに、「斜めの関係」があることをご存じでしょうか。
縦・横・斜めの3つの関係をそれぞれ説明します。「縦の関係」は親と子、先生と生徒、先輩と後輩、上司と部下のような上下関係のことを指し、「横の関係」は同級生や友人知人、チームメート、恋人や夫婦、同僚や同期のような上下関係がなく平等な関係のことを指します。それに対して「斜めの関係」は、学生だと地域の大人や卒業生、社会人では他部署の上司や他社に勤めた先輩など、日常的には接することが少ない、あるいは直接的な利害関係のない人との関係を表します。一見すると、縦と横の関係があればいいのではないかと思われるかもしれませんが、人の成長には「斜めの関係」が大いに寄与していると言われています。
なぜ「斜めの関係」が人の成長に寄与しているのか、注目されているのかというと、「気兼ねなく相談できる」「異なる視点や価値観が得られる」といった点が挙げられます。人間関係での悩み事は学校でも会社でも起きるものですが、特に会社での悩み事は同期や上司には相談することができずに、ひとりで抱え込んでしまうことがままあります。そういった時に気兼ねなく相談できる相手が「斜めの関係」であり、悩み事の解決に導いてくれる存在です。また、会社員になると企業風土や経営者の考え方に傾きがちになったり、あるいは自分の思考に凝り固まりがちになったりします。「斜めの関係」から意見をもらうことで、社内にはなかった異なる視点や価値観を得ることができ、視野が広がり、物事を多角的に見ることができるようになります。
このように、「斜めの関係」は、それまで関わることのなかった人たちとの関係を構築していくことで、様々な視点が取り入れられ、新たな知識・知見を得られるようになるのです。
「斜めの視点」こそが、従業員や組織を成長させる
中小企業経営者の皆様のなかには、「従業員が成長してくれない」といった悩みを抱えている方が少なくないと思います。従業員を成長させ、自律的な組織を構築したいという願いをお持ちの方もいらっしゃると思います。言い方は悪いかもしれませんが、これまでの仕事の仕方としては、上司に言われたことをこなし、同期と仲良くし、部下に命令していればよかったわけです。日常的に存在する縦と横の関係ばかりになると、結果として「慣れ」や「馴れ合い」を引き起こしかねませんし、成長への刺激が少なくなってしまうので、従業員はなかなか成長していきません。
さまざまな価値観があり、情報通信技術の発達によって働き方が多様化するとともに、時代の変化が激しくなっています。そのような状況にあって、組織の課題として挙げられるのが「コミュニケーションをいかに活発化させ、従業員や組織を成長させるか」であり、その課題を解決する策が「斜めの関係」ならぬ、「斜めの視点」です。なぜ「斜めの視点」が従業員を成長させて組織を活性化させるかというと、「斜めの関係」でも説明したとおり、利害関係が存在しないからこそ得られる言動や考え方を取り入れることで、成長や活性化を促す刺激となりうるからです。
「斜めの視点」を持つためのポイントはただひとつ、『よき相談相手、かつ、よき理解者になる』しかありません。具体的には、①縦の関係を抜きにすること、②業務上の問題解決を目的としない声かけをしてみること、③相手の話を否定せずに受け止めること、の3点を心がけてみてください。忙しくてできないと思わないで、従業員の成長や組織の活性化に向けて必要なことですので、少しずつでも取り組んでいただきたいところです。
「斜めの視点」としての中小企業診断士
中小企業経営者における中小企業診断士の立場は、まさに「斜めの視点」にあると考えています。私自身も中小企業を経営している身なので分かりますが、さまざまな決断を下さないといけない場面がある経営者は、社内の「縦の関係」が多くを占めてしまっているが故に、孤独になりがちです。重要な決断を下さないといけないのに充分な情報を得られていない、と感じる経営者も少なくないでしょう。そのような場合に、中小企業診断士は経営者とは異なる「斜めの視点」から内外の状況を見て、当該企業の改善・維持・発展に向けたアドバイスを経営者の皆様にお伝えすることができるのです。
経営者の皆様におかれましては、「縦の関係」である上司でも部下でもない、「斜めの視点」を持った中小企業診断士をご活用いただければ幸いです。