廃業を考える前にM&Aの検討を
- 2021/11/1
- 診断士の視点
中小企業診断士・事業承継士 横山 眞由美
1.増える廃業と引継ぎ支援の強化
帝国データバンクが行っている「休廃業・解散企業」動向調査によると、2020年に全国で休廃業・解散した企業は、約5万件(前年比14.6%増)と過去最多となっています。そのうち、代表者が60代以上の割合は84.2%となっており、代表者の高齢化や後継者不在、また新型コロナウィルス感染症などの影響から廃業を決断されていることが伺えます。
事業承継の問題は、10年以上前から問題になることが予測されており、2017年には事業の次世代への引継ぎと後継者が積極的にチャレンジしやすい環境を整備するために「事業承継5か年計画」が公表され、2019年には黒字廃業を回避するための第三者への引継ぎ(以降、「M&A」と称します。)を支援するため「第三者承継支援総合パッケージ」が公表されるなど、国も力を入れて事業の引継支援に取組んでいます。
2.M&A市場について
M&Aというと、少し前までは規模の大きな会社が対象で、自分たちのような小さな会社は関係ないと思われる経営者の方もおられるかと思いますが、現在は少し違ってきています。
起業を目指す個人などが一から会社を立ち上げるよりも、既に販売先や仕入れ先がある企業を買いたいと「買い手」に回るケースもでてきており、小規模な企業でも「売り手」としてM&Aが成立しやすい環境が整ってきています。実際にM&Aは、多くの中小企業の事業承継に活用されています。
3.廃業とM&Aの違い
廃業を選択する場合とM&Aを選択する場合では何がどう違っているのでしょう。廃業とは、広い意味では事業をやめることを意味しますが、ここでは、自ら事業をやめる「自主廃業」とM&Aについて比べていきたいと思います。
①M&Aの方が金銭的メリットは大きい傾向
自主廃業の場合は、不動産や売掛金など帳簿上の資産を現金化し、借金等の返済や税金、廃業登記費用などの支払いに充当され、その後、残ったお金が株主に分配されることになります。一方、M&Aの場合は、売り手の提示する価格と買い手の提示する価格の妥協点で価格が決まり、株式の売却益を手に入れることが可能になります。
急いで資産を売却することで低い売却額となり、解雇する従業員への補償や清算・解散手続き費用などが引かれるため、廃業のほうがM&Aよりも手元に残るお金は少なくなる傾向にあります。
②M&Aでは会社は存続し事業発展も期待できる
廃業の場合は、会社は消滅します。会社が消滅するということは、今まで一緒に頑張ってきた従業員の雇用も維持できず、得意先との関係も維持できなくなります。技術、信用、販路などといった目に見えない資産もすべて失うことになります。
M&Aの場合は、今までやってきた事業を外部の後継者に引継ぐことで、見えない資産も従業員の雇用も関係先も維持できる可能性が高くなります。また、仕入れや製造、営業、販売など各活動での連携や統合などによる生産性向上や競争力の強化などのシナジー効果によって事業の発展も期待できます。
③M&A(売り手)のデメリット
- 買い手が現れない
- 希望の条件で売却できない
- 労働条件の変更等による従業員の離職
売り手のデメリットとして買い手が現れない、希望通り売却出来ないということがありますが、それでは買い手はどのような点を重視して売り手企業を探しているのでしょう。
4.M&A(売り手)としての対策
①買い手企業は財務面やシナジー効果、成長性を重視している
下記の表は、買い手企業が同業種同業態の企業を探している場合と、同業種ではなく川上もしくは川下企業で探している場合に分けて、どのような点を重視して売り手企業を探しているのか、アンケート調査を実施した結果になります。
同業種同業態の企業を探している買い手企業では、直近の売上・利益や借入れ状況といった財務面を重視する傾向にあり、川上もしくは川下企業で探している企業では、既存事業とのシナジーや事業の成長性や持続性といった新規事業展開について重視していることがわかます。
表1.買い手としてM&Aを実施する際に重視する確認事項
②M&Aも視野にいれ早めの対策を
買い手にとって魅力的な売り手になることができれば、より高い価格で売ることも可能となります。M&Aの売却益で借入金の返済やその後の生活費への充当ができれば、リタイア後の金銭的な負担も軽減することができます。また、経営方針や従業員の雇用継続、事業発展のためのシナジー効果など、自社にあった買い手企業を探すことがよりやりやすくなります。
では、どのような対策をすれば良いでしょうか。
買い手企業が重視する売上や利益、成長性をアピールするためには、事業の見直しや新規事業に挑戦をするなどの対策や、過剰な借入れがあれば返済をするなどの財務面での対策も有効です。その他にも、許認可や販路など買い手企業がほしいと思える何かがあるかも知れませんので、会社の見える化、言語化をお勧めします。
後継者が探せず、自分の代で終わらせようと思っている方もいらっしゃるかと思いますが、廃業だけではなく、会社を売却するという選択肢も含め検討されることをお勧めします。
事業承継や廃業、M&A、事業の磨き上げなどについて知りたいことや相談したいことがある方は、当診断士会にご相談ください。