理事長就任のごあいさつ

一般社団法人 川崎中小企業診断士会
理事長 入谷 和彦

令和4年5月23日の定時総会後の臨時理事会で、理事長を拝命いたしました入谷(いりたに)です。山﨑前理事長を始めとして、多くの諸先輩方が築いてこられた当診断士会を継続し、より発展させるべく、力不足ながら勤めさせていただきます。

現在、外部の経営環境は大きく変化しています。数年前から、今後の予想がしにくい状況を指す「VUCAの時代」(Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性))と言われてきましたが、今やVUCAが日常となってしまったためか、あまり言われなくなってきました。

一方で、日本の状況は少子化を含め、あまり良い状況は考えられず、低金利、低成長、低賃金の状態はしばらく続くと思われます。もはや、これまでの経験や知識だけでは、経営環境の変化に対応できないのは確実で、いろんな意味でのイノベーションが必要になります。

しかし、これまでの自らの経験値が役に立たない場面があり、どのようなイノベーションが必要か、企業の皆様にコンサルティングしていても、なかなか明確な方針を提案できず、四苦八苦しています。

とはいえ、経営環境の今後の見通しとして、とりあえず以下の4点を考えています。

1.新型コロナウィルス前とは大きく異なる経営環境になる

新型コロナウィルスは、人々の生活パターンや生活習慣に大きな変化をもたらし、コロナを経ては、もうコロナ前には戻らないというマーケットの変化が顕著になってきています。

例えば、テレワークの普及による通勤客や外出者の減少、ネット通販の拡大などは今後も進展します。日本の長いデフレ時代の影響で、消費者の価格に対する感覚はシビアなままです(消費税を2%上げただけで消費が低迷するのは、日本以外では見られません)。昨今の様々な値上げには多くの人が仕方なく応じていますが、値上げにシビアな傾向は変わりません。一方で、自分にとって価値があると思えば相応の支出を許容する傾向も強くなっています。つまり、ドラッカーのいうところの「顧客価値の創造」ができれば、まだまだビジネスチャンスはあります。

コロナの影響を大きく受けて、まだ立ち直れない事業者様もありますが、大きく立ち直っている事業者様もあります。こういった事業者様は、コロナ前、あるいはコロナ中に何らかのイノベーションを行って、コロナ前とは異なる顧客価値を生み出している場合がほとんどです。

今後とも、コロナを経験した消費者や顧客の性向を見極め、イノベーションによって「顧客の価値創造」を行うことが必要です。

2.SDGs、ESG投資等、サステナブル(持続可能)な社会への動き

地球温暖化、環境問題、人種や性差の差別、貧困等々を克服して、サステナブルな社会構築への動きは、もはや後戻りはせず、より強い動きとなります。何らかの社会的課題に貢献していない企業は、大小を問わず、生き残ることができなくなります。最近、新たに創業する若い人のほとんどは、何らかの社会的課題に貢献することを一つの目標にしています。

こうした中で一番影響が大きいのは地球温暖化対応・脱炭素です。この対応は、残念ながら日本が主導権を取れない形で世界的枠組みができてしまいました。好むと好まざるにかかわらず、すべての企業は地球温暖化に取り組まなければ、生き残ることはできません。一企業だけでは対応できない課題もあります。例えば、2050年には、クリーンエネルギーではない電力で製造した製品は欧米に輸出することができなくなる可能性があります。

中小事業者様も、脱炭素を含んだサステナブルな社会への対応が不十分ですと、今後の企業活動に大きな影響が考えられます。こういった対応を企業目的として見据え、できることから対応を進めていく必要があります。

3.人の問題

昨今の働き方改革、健康経営、育児休暇等々、従業員を大切にする方向性は今後も変わりません、私の知る限り、ほとんどの経営者の方は従業員を大切にしていらっしゃいます。しかし、今後は、大切にするだけでは足りません。従業員の能力を伸ばし、力を発揮してもらって、イノベーションが生まれるようにしていかなくてはなりません。従来の発想や慣習に捉われず、柔軟で新しい発想を奨励して、風通しのいい土壌を持つ企業でなくては、イノベーションは生まれず、生き残っていくことができません。

4.安全保障への対応

ロシアのウクライナ侵攻で、これまでの世界の枠組みが大きく変化しました。これまではグローバリゼーションの進展で、地球上で一番最適な場所で製造活動を行い、グローバルなサプライチェーンでの調達を行ってきました。これからは各々の国の経済安全保障の観点から、経済合理性を犠牲にしても、一定の地域からの調達は行わないようになります。また、従来の調達先からの調達が、国際情勢の変化によってできなくなるケースが発生しやすくなります。このため大企業は、製造活動の国内回帰を含め、サプライチェーンの複数化に取り組んでいます。

中小企業の場合、調達先を安全保障の観点から捉えるという経済安全保障の影響を低くするために、調達先を複数確保する、といった活動は経済的にも難しいところです。しかし、経済安全保障の対象となる地域からの調達は、調達できなくなるリスクを踏まえて、代替手段を持っておくことが、どうしても必要になってきます。

この他にも、予想できないリスクは多々存在すると思われます。私たち、事業者様をご支援する立場としては、経営環境の変化を捉え事業者様がどのようなリスクに晒されるかを常にウオッチし、事業活動が正常に行われるようなご支援に努めていく所存です。

今後とも、宜しくお願い致します。

以上

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