少子化社会への対応は待ったなし。中小企業の取るべき道は?
- 2022/9/1
- トピックス
中小企業診断士 山内 喜彦
日本の少子高齢化が進んでいることは皆さんご承知の通りであり、人口減少は国の活力低下に直結しかねない。それを防ぐためにも人口が減ってもなお成長が続く社会にすることが急がれる。
2021年に生まれた子供の数(出生数)は前年比3.5%減の約81万人で過去最低となった。2022年男女共同参画白書では、未婚や事実婚など人生や家族の姿が多様化したことを「もはや昭和ではない」と表現した。家族の姿が変わってきている。
内閣府が21年12月~22年1月に20~60代の2万人から回答を得た結果をまとめた(人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査)。30歳時点の未婚女性の割合は1980年の11.3%から20年に40.5%に上昇した。婚姻歴のない30代男女の4人に1人が結婚願望がないと答えた。
日本で出生数が減少する最大の要因は、出産期にある若い女性が減ることにある。なぜ出産期の女性が減るかと言えば、出生数が減少すれば当然のことながら女の赤ちゃんも減り続ける。
離婚件数は年間およそ20万件で「女性にとってもはや結婚は永久就職先ではなくなった。」と白書で記した。「女性の経済的自立を可能にする環境整備」が重要であることは言われて久しいが、進んでいるとは言い難い。結婚と妊娠・出産とは密接な関係があるが、こうした状況では、いまさら出産期の女性を大幅に増やすことは不可能で、日本の出生数減は構造的な問題と言える。
2021年の合計特殊出生率は1.30であるが、出産期の女性が減ってしまえば、合計特殊出生率が多少回復しても出生数は減り続けていく。合計特殊出生率が長期低迷すると、子供が少ないことが当たり前になってしまい、それに合わせて人々の意識やライフスタイルが変わってしまう。これを「低出生率のわな」というが、日本はすでにこうした状況にある。
日本は子育て不安の強い国と言われている。内閣府の国際意識調査(2020年度)では、「子供を産み育てやすい国だと思わない」と答えた割合が61%に達し、少子化対策が進むスウェーデンやフランス、ドイツを大きく上回る。ユニセフの報告書(20年)によると、日本の子供の幸福度は38ヶ国中20位にとどまる。さらに、日本の子育て関連の公的支出が欧米諸国に比べて半分程度にとどまっているという事実がある。
これに対して、政府は「子ども家庭庁」を創設することにした。(本年6月15日に法案は成立し来年4月に発足する。)しかし、子供政策の一元化で何とかなる段階はすでに終わったのではないだろうか。出生数が減少し続ける以上、やらねばならぬことは明確だが、即効性があるわけでもないので、長期的スパンで愚直に実行していくほかはない。
一つは出生数の減少ペースを少しでも緩やかにすることだ。これは政府が子育て支援策を中心にこれまで展開してきた政策で、近年は結婚支援策や不妊治療へのサポートなどにも力を入れている。「子ども家庭庁」の創設で、少子化対策、子育て支援政策などをさらに強化して欲しい。
もう一つの政策は、出生数が減少することを前提とし、少子化によって起きる社会課題への対応だ。こちらはほとんど手つかずと言ってもいい状況だ。
出生数減が進めば国内マーケットや人手不足が深刻化し、売上を拡大するビジネスモデルは破綻する。企業経営者にとっては深刻な問題であり、他人任せではなく自ら立ち上がっていかねばならない課題だ。
人手不足に対しては既に多くの企業が対策を講じているが、即効性のある妙案はなく、これまでに講じてきた施策を愚直に進めるほかはないと考えられる。即ち、
- 業務の効率化を進め、少人数でも現在の業務がこなせる体制を作ること。
今まで何ら問題のない業務を何故変えねばならないのかという意識を捨て、当たり前と思っていたことに何か改善の余地がないかを考えることが望まれる。 - 女性の活用、高齢者の活用を図る。
女性が働きやすい職場環境を整え、女性の社会進出を促す施策を講ずる。 - AI活用、ロボットなどの導入により、人手に頼る作業を減らすこと。
業務のデジタル化に拒否反応を示す社員も見られるので、社員が使ってみたいと思うシステムや仕組みを検討する。
こうした課題解決のために、国は多くの補助金や助成金を用意している。設備投資を必要とする企業には、ものづくり・商業・サービス補助金やIT導入補助金。社会人の学びであるリカレント教育を含む人材育成のためには、従業員向けに教育訓練給付金、高等職業訓練促進給付金、企業向けには人材開発支援助成金。女性の活用を図るためには、両立支援等助成金などいくつかのメニューがあるので、こうしたものを利用して戴きたいと考える。
また、川崎中小企業診断士会では、企業の抱える多種多様な課題に対応できる経験豊かな人材を抱えており、多くの企業の期待に応える活動をしているので活用を検討して戴きたい。
先に述べたごとく、出生率を上げることで、日本の人口減少を食い止めることはできない。日本を人口が減ってもなお成長が続く社会にし、多くの企業が持続可能な存在であり続けるために、自分の会社は何をすべきかを考えることを躊躇してはいけない時代に入っているのだ。
以上