新年のごあいさつ

中小企業診断士 入谷 和彦

新年明けましておめでとうございます。

会員の皆様方におかれましては、健やかに新年をお迎えのこととお喜び申し上げます。旧年中は当診断士会の諸事業活動へご協力いただきまして、誠にありがとうございました。また当会の活動を支えていただいた支援機関の皆様には、深く感謝申し上げます。

昨年を振り返りますと、11月~12月のサッカーのワールドカップでの日本チームの活躍は、今後の期待を持たせるもので、久々に明るい話題を提供してもらいました。私は中学・高校とサッカーをやっていましたが、当時と比べるとサッカー自体が異次元に進化しています。その中で、日本チームの運動量や技術だけでなく、メンタル面も世界レベルになりました。1968年のオリンピックで銅メダルをとった時に比べると、隔世の感があります。半分以上の選手がヨーロッパのプロリーグに所属していることも一因ですが、Jリーグに始まるサッカー界の努力が実を結びつつあることを感じます。ワールドカップ優勝も将来的には夢ではないと思わせる活躍でした。

しかし、サッカー以外では、昨年は、新型コロナウィルス、戦争の脅威、地球温暖化が原因とされる異常気象による自然災害、円安、物価高等々、暗い深刻な話題ばかりだったように思います。これらの事象は、どれも「リスク管理」の範疇ではなく、「危機管理」の範疇です。

「リスク管理」と「危機管理」は、似通った点もありますが、考え方や対処方法が異なります、

「リスク管理」は、「想定されるリスクの発生による損害を未然に防ぐための策を検討し、実施して、リスクをコントロールする」ことです。リスクの種類を明確にし、各々のリスクの対応策(コントロール)を策定して実施することによって、損害を低減させる活動です。「リスク管理」と銘打っていなくても、多くの経営者の方々は、ある程度のリスク管理を行っていらっしゃいます。例えば、火事に備えて防火設備(消火器、その他)を設置している、サイバー攻撃に備えてPC等にセキュリティソフトを入れている、取引先の納入業者が不安定になった時には別の業者を探す、ケガをしないように建物や工場内の安全策を講じる、といったことです。ただ、「リスク管理」として体系的な活動を行うことによって、漏れが無くなり、リスク発生時の被害を最小限にすることができます。

これに対して「危機管理」は、地震・自然災害や外部要因等によって発生する「企業努力では防ぎようのない危機」に対応しようとするもので、危機が発生したときに「どのようなプロセスで損害を最小化するか」が主眼になります。

「危機管理」の代表的な例がBCP(事業継続計画)です。「危機管理」は本来的には何が起きるかわからないことに対する対応策ですが、全く想定が無いと策定することができないため、ある程度のシナリオを想定して策定します。

2011年の東日本大震災の後では、BCPを策定する対象は地震でした。2020年に新型コロナウィルスの感染が問題になってからは、感染症対策のBCPも策定されています。BCPを策定する場合は、あまりシナリオを増やし過ぎると混乱するので、今のところは地震・水害等用と、感染対策用の2つくらいあればいいかと思われます。

地震は一定の確率で起きることが想定されています。しかし異常気象による自然災害は、地球温暖化によって明らかに発生頻度が増えています。感染症も、今後は数年に一度は発生する可能性が高いことが指摘されています。さらには、戦争、物価高、ハイパーインフレといったことも視野にいれる必要があると思われます。

BCPの策定に関しては、当「川崎中小企業診断士会」にも専門家がおりますので、お手伝いすることが可能です。

BCPの肝要は「災害対策本部」の立ち上げで、通常は社長等の組織の代表者が本部長になります。「危機管理」は「最悪のプロセスで損害を最小化する」のですが、この全てのプロセスを担うのが「災害対策本部」です。しかし「災害対策本部」を立ち上げても何も準備が無ければ対策の選択肢が少なくなり、有効な対策が実施できなくなります。このための準備が必要です。

BCPというと、いざという時の準備に焦点が当てられがちですが、重要な点は「災害対策本部に有効な対策の選択肢を与える」ための準備という点です。

このため、例え大企業であっても、危機に対する完全なBCPはありません。企業様の資金面や要員の状況によって、どこまで対策を行うかは変わってきます。自らの組織で可能な準備を行うのが、BCPのポイントです。

以下に、最低限行っていただきたい「危機管理」のための準備を列挙してみます。

(1)人命を守る
対策として一番重要なことは、従業員やその家族の人命を守ることです。これには、以下の準備が必要です。

  • 安否確認の方法を構築する。安否確認については、年1~2回訓練を行うことが必要です。
  • 社屋が火災や損壊した時の避難場所をあらかじめ設定しておく。
  • 被害発生の際は、会社に籠城することになりますので、数日から1か月分の水・食料、寝具、衛生用品等を備蓄しておく。
  • けが人や病人が発生した場合の搬送先(医療機関)や搬送手段をあらかじめ用意しておく。

(2)地震に対して

  • 建物の耐震補強は、できるだけ行っておく。
  • 社屋内の設備・機械には倒壊防止及び落下防止策を行っておく。
  • 地震で揺れた際の、設備や機械の停止基準や停止方法を決めておく(火災の発生の防止や、設備・機械の大きな損害を防ぐため)。
  • できれば、蓄電池の準備、自家発電設備の設置。

(3)水害に対して

  • ハザードマップで、社屋等の水害の可能性を把握しておく。
  • 水害の可能性の高い場所には、止水板や土嚢を準備しておく。
    また可能であれば、設備の設置場所をかさ上げしておく。

(4)感染症(新型コロナウィルス等)に対して

  • マスクや体温計を一定数備蓄しておく。
  • 近隣の発熱外来等を確認しておく。

(5)戦争、物価高に対して

  • 戦争や物価高の危機の可能性が高くなったら、材料、燃料等を多めに備蓄しておく。
  • 仕入先の複数化を検討し、可能ならば取引をしておく。
  • 中国から商品・製品・材料を輸入している場合には、代替できる調達方法を探しておく、できれば中国からの依存度を下げておく。
  • 中国に販売先・輸出先がある場合、他の販売先を開拓し、中国の依存度を下げておく。

(6)IT関係

  • PCやサーバーの重要データは、定期的にバックアップを取得し、隔地保管(同じ被害を受けない少し離れた場所での保管)を行う。
  • できれば、予備の機器を隔地保管しておく。
  • 通信方法の多重化(インターネット回線とWi-fi回線、固定電話と携帯電話、IP回線 等)。

以上は、BCPとしては初歩的ですが、ある程度の準備で、いざ危機が発生した時の有効な対策が増え、損害を軽減することが可能となります。

新年早々、暗い話題で恐縮ですが、2023年には昨年にも増して、様々な危機の発生が考えられます。可能な範囲で、最低限の準備を行って、「危機管理」を行っていただきたいと思います。

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