事業再構築補助金 ~事業計画書作成のポイント~

中小企業診断士 久保田 昌宏

はじめに

事業再構築補助金はポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業等の思い切った事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とする制度です。昨年2022年12月、国会で令和4年度第二次補正予算が通過し、事業再構築補助金は継続することになりました。

ここでは、ビジネスモデルを変革し、事業再構築を目指される中小企業経営者の方に、申請に必要な事業計画書作成にあたって、いくつかのポイントをお伝えいたします。

事業計画書作成にあたってのポイント

(1) ルールを理解する

公募要領は、補助金公募に際してのルール・規則を定めたものです。事業の目的や補助対象者、補助対象事業の要件、補助対象経費等、応募手続きに必要な情報が事細かに記載されています。

公募要領を熟読し、制度をよく理解したうえで、申請の準備を進めることが大切です。

また、「事業再構築指針」に「事業再構築」の定義等について、明らかにされており、下図のとおり、「新分野展開」、「事業転換」、「業種転換」、「業態転換」「事業再編」の5つの類型のうち、いずれかの類型に該当する事業計画を認定支援機関と策定することが必要となります。

(2) 審査項目を押さえる

事業再構築補助金の概要には、「コロナの影響で厳しい状況にある中小企業、中堅企業、個人事業主、企業組合等を対象とします。申請後、審査委員が審査の上、予算の範囲内で採択します。」と明示されています。つまり、事業計画書が審査され、採択が決定されるということです。

したがって、審査項目をしっかり押さえ、網羅する形での事業計画書の作成が重要になるのです。審査項目としては、下記が明示されています。

※以下、事業再構築補助金 募集要項から抜粋

■事業化点

  1. 本事業の目的に沿った事業実施のための体制(人材、事務処理能力等)や最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。また、金融機関等からの十分な資金の調達が見込めるか。※複数の事業者が連携して申請する場合は連携体各者の財務状況等も踏まえ採点します。
  2. 事業化に向けて、競合他社の動向を把握すること等を通じて市場ニーズを考慮するとともに、補助事業の成果の事業化が寄与するユーザー、マーケット及び市場規模が明確か。市場ニーズの有無を検証できているか。
  3. 補助事業の成果が価格的・性能的に優位性や収益性を有し、かつ、事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールが妥当か。補助事業の課題が明確になっており、その課題の解決方法が明確かつ妥当か。
  4. 補助事業として費用対効果(補助金の投入額に対して増額が想定される付加価値額の規模、生産性の向上、その実現性等)が高いか。その際、現在の自社の人材、技術・ノウハウ等の強みを活用することや既存事業とのシナジー効果が期待されること等により、効果的な取組となっているか。

■再構築点

  1. 事業再構築指針に沿った取組みであるか。また、全く異なる業種への転換など、リスクの高い、思い切った大胆な事業の再構築を行うものであるか。※複数の事業者が連携して申請する場合は、連携体構成員が提出する「連携体各者の事業再構築要件についての説明書類」も考慮し採点します。
  2. 既存事業における売上の減少が著しいなど、新型コロナウイルスや足許の原油価格・物価高騰等の経済環境の変化の影響で深刻な被害が生じており、事業再構築を行う必要性や緊要性が高いか。
  3. 市場ニーズや自社の強みを踏まえ、「選択と集中」を戦略的に組み合わせ、リソースの最適化を図る取組であるか。
  4. 先端的なデジタル技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、地域のイノベーションに貢献し得る事業か。
  5. 本補助金を活用して新たに取り組む事業の内容が、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応した、感染症等の危機に強い事業になっているか。

■政策点

  1. ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に伴い、今後より生産性の向上が見込まれる分野に大胆に事業再構築を図ることを通じて、日本経済の構造転換を促すことに資するか。
  2. 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、経済社会にとって特に重要な技術の活用等を通じて、我が国の経済成長を牽引し得るか。
  3. 新型コロナウイルスが事業環境に与える影響を乗り越えて V 字回復を達成するために有効な投資内容となっているか。
  4. ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格な品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有しているか。
  5. 地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等に対する経済的波及効果を及ぼすことにより、雇用の創出や地域の経済成長(大規模災害からの復興等を含む)を牽引する事業となることが期待できるか。
  6. 異なるサービスを提供する事業者が共通のプラットフォームを構築してサービスを提供するような場合など、単独では解決が難しい課題について複数の事業者が連携して取組むことにより、高い生産性向上が期待できるか。また、異なる強みを持つ複数の企業等(大学等を含む)が共同体を構成して製品開発を行うなど、経済的波及効果が期待できるか。

以上の審査項目を理解し、自社の内容にあてはめて、チェックしながら進めていくことが審査項目を網羅した事業計画書を作成する第一歩となります。

(3) 採択事例を研究する

事業再構築補助金事務局のホームページには、採択事例の計画書が公表されています。

計画書の構成、テーマの整理の仕方、図示などの表現方法など、参考にできる部分がたくさんあります。自社の計画に近しい事例を一つ選び、徹底的に研究することが精度の高い計画書を作成する近道といえるのではないでしょうか。

(4) ストーリー性のある計画骨子をつくる

審査員の共感を得られるストーリー性があり、かつ論理的な展開で実現性の高い計画を策定するために、骨子をつくりましょう。下図は一例ですが、起承転結を意識してつくると読み手にわかりやすく、整理された内容になります。

【起】

冒頭にこれから記述する計画書の内容がわかる概要や補助事業と事業再構築指針との適合性を示す図などを掲示し、読み手に大筋の理解を促します。

【承】

事業内容やこれまでの沿革、組織体制、経営理念・ビジョンなどを示し、現在どのような事業を展開しているのか、読み手にイメージさせます。また、内部環境である自社の強み・弱みの洗い出しと外部環境である機会・脅威の抽出を行います。そして、下図のようにクロスSWOT分析を実施して、事業再構築に結びつく戦略を導き出し、これから記述する新事業への方向性を明確にします。

【転】

戦略の方向性を裏付けるため、事業再構築を実施する契機となった事業環境の変化、新型コロナウィルスや原油価格や物価高騰等による影響を明示し、事業再構築の必要性や緊要性を訴求するとともに「当社」がなぜこの事業再構築に取り組むのかを読み手に強く印象づけます。

【結】

そして、いよいよ事業再構築の具体的な内容を明示していきます。基本的には「強みを活かして、経営環境の変化に対応するために事業再構築を実施し、機会を獲得する」展開で構成する形をとります。事業再構築を推進するうえでの課題・リスクを明示したうえで、具体的な解決策を展開します。そのうえで下記の項目について明示していきます。

  • 事業再構築の市場の状況、自社の価格的・性能的優位性
  • 実施体制、スケジュール、資金調達計画、収益計画
  • 事業再構築で実現するデジタル技術の活用、地域でのイノベーションへの貢献
  • 事業再構築で取組む複数の事業者との連携 など

以上、事業再構築補助金での事業計画書作成にあたってのポイントを例示いたしました。自社のケースにあてはめながら、実践していただければ幸いです。

【参考】

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