働き方改革と生産性向上に向けて

中小企業診断士 石崎 優子

1.はじめに

「働き方改革」とは、働く人が個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。

日本は「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働く方々のニーズの多様化」に直面しています。生産性向上とともに、就業機会の拡大や、意欲・能力を十分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

これらの課題の解決のため、働く一人ひとりがより良い将来の展望を持てるように「働き方改革」が求められているのです。

2.働き方改革関連法について

働き方改革を推進するため、様々な制度が制定・改正されました。

時間外労働の上限規制導入
時間外労働の上限について月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合にも上限を設定する。

年次有給休暇の確実な取得
使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日について確実に取得させなければならない。

中小企業の月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
月60時間超の残業に対する割増賃金率を25%から50%に引き上げる。

フレックスタイム制の拡充
労働時間の調整が可能な期間を3か月まで延長する。

高度プロフェッショナル制度創設
職務の範囲が明確で一定の年収を有する労働者が高度の専門知識等を必要とする業務に従事する場合に健康確保措置や本人同意、労使委員会決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外にできる。

産業医・産業保健機能の強化
産業医の活動環境を整備し、労働者の健康管理等に必要な情報を産業医に提供する。

勤務インターバル制度の導入促進
終業時間から次の始業時間の間、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)の確保に努める。

同一労働同一賃金
同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給やあらゆる待遇について不合理な差を設けることを禁止する。

育児・介護休業法の改正
産後パパ育休(出生時育児休業)を新設、育児休業の分割取得が可能となる。

これらの制度内容を確認すると、過去に「24時間働けますか」と歌われていた、がむしゃらに働く時代は終焉し、働く人にとって、より働きやすくなるよう世の中が変わってきていることが感じられます。

しかし、川崎市が市内2,000事業所を対象にしている「令和4年度労働状況実態調査」によると、育児休暇の取得率10%未満は女性職員51.5%に対し、男性職員73.4%という結果からも、制度の浸透には厳しい現実も見えてきます。

3.中小企業における働き方改革

新型コロナウイルス感染症拡大により、緊急避難的に在宅勤務等を導入した結果、リモートワーク環境の未整備や、業務指示・進捗管理の非明確化、コミュニケーションの希薄化など業務が滞るデメリットが生じました。一方で、通勤時間の減少によるワーク・ライフ・バランスの充実化や、オンライン会議による移動時間の削減などのメリットが生まれ、生産性の向上が一部、自然と進みました。

働き方改革を着実に実施することで、魅力ある職場づくりにつながり、「この会社で働きたい」という人材が確保できるようになります。その結果、人手不足は解消され、業績の向上、利益の増加といった好循環が生み出されていくのです。中小企業だからこそ意識の共有がされやすく、働き方改革が浸透していく面もあるのではないでしょうか。

しかし、働き方改革を着実に実施するために、有給や育休をしっかり取ることを推奨したり、残業時間を削減するなどしたいと思っていても、人手に余裕がないため、仕事が回らなくなってしまうのは困る、と悩むのが現実です。具体的な対策を検討してみましょう。

4.働き方改革の取組事例と職場づくり

企業によって抱える課題や悩みは様々ですが、「従業員にとって働きがいのある職場づくり」と「生産性向上による競争力のアップ」は、これからの企業経営に欠かせないテーマとなっております。

例えば、下記のような取組があります。

  • 運送業の事例:PC連動のアルコールチェッカーを導入し、入力の手作業を削減したことにより生産性を向上。クラウドの活用によりペーパーレスを実現。
  • 製造業の事例:機器のレンタルや外部委託に頼っていた作業を、最新機器導入により、加工時間・加工費・配送コストと出張交通費を削減。

これら運送業や製造業の事例はDXやデジタル化になります。DXやデジタル化は、「自社では難しいことだ」「DXといってもうちでは何ができるのかわからない」などと他人事に捉えず、上記の事例のように自社にできることに置き換えて考えてみましょう。ICT活用や、先端設備導入により確実に生産性は向上します。初期投資をかけても、作業時間の軽減により働き方改革につながり、その結果、社員のモチベーションは増加し、より良い人材の確保や売上、利益の増加など様々な相乗効果が期待できるのです。

また、優秀な人材を確保し、社員の長時間労働を避けるために、これからは多様な人材を活用していく必要があります。外国人、高齢者、障害者をはじめ、練習時間を確保したいアスリートや、家庭を優先したい子育て中の方などの活用も注目されています。多様な人材が働きやすい環境づくりが求められ、「働きたい」と「働いてほしい」のマッチングが重要となる中、業務の切り出しを行うことが働き方改革の第1歩につながります。

「いつ」「誰が」「どのような」業務をしているか、一つ一つ切り出し、業務を見直すと、無駄が省かれ、整理された業務にあった人材を見つけ、生産性を向上させる可能性が広がります。

次に、不動産業での職場づくりの事例を紹介します。

  • 不動産業の事例:書類のデジタル化の必要性は感じているものの、なかなか進められなかったけれど、障害者が活躍している企業に書類のスキャンを外部委託しました。不動産業者の「書類を電子化したいけれどする人手や時間がない」と障害者活躍企業の「できる作業や働くことのできる時間は限られているが、働きたい。書類のスキャンならばできる」というマッチングが生まれました。
    また、業務フローの見直しや確認を行うことで、ペーパーレス化が進みました。障害者がわかりやすいフローや仕組みを作り上げることは、誰にとってもわかりやすいフローや仕組みとなります。仕組みが出来上がれば、次に新しい人が来た時もわかりやすく、教える手間や時間を省くことができます。業務の切り出しを整理した結果、現在の職場環境が見直され、皆が働きやすい職場に変わった好事例です。

5.おわりに

「良い人材が見つからない」「長時間労働がなくならない」「有給や育休を取らせてあげられない」などと悩んでいる企業にとって、本稿が働き方を一度見直して、意識改革をすることで時代の流れを味方につける一助となれば幸いです。

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参考:厚生労働省ホームページ 働き方改革ガイドライン
   川崎市労働状況実態調査
   かわさき労働情報
   川崎市働き方改革・生産性向上取組事例集

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