中小企業の環境マネジメントシステム(エコアクション21)活用のすすめ

中小企業診断士・エコアクション21審査員補 徳植 義人

1.はじめに

2050年においてカーボンニュートラルの達成や脱炭素社会の実現を目指すことを日本政府は宣言し、経済社会システム全体として変革の取組を行っています。中小企業においても、コスト負担増やルールチェンジによるリスク側面を意識しつつも、カーボンニュートラルへの挑戦、資源循環型社会へのシフト等の社会の変化を成長の機会と捉えることが大切です。

経営として環境への取組を拡充することは、生産性の向上や新事業の創出など、自らの稼ぐ力の強化につながります。しかし、環境への取組に関心を持っているものの進め方がわからないなどの理由で活動が進められていない中小企業は少なくありません。

環境省が策定し普及を進めるエコアクション21(以下 EA21と表記)は、あらゆる業種の中小企業が着手しやすいように、そして、継続的に環境への取組ができることを目指した環境マネジメントシステムです。ここでは、環境への取組がうまく進められずに困っている中小企業の経営に関わっている方に、EA21の効果をお伝え致します。

2.環境への取組における中小企業の困り事

取組を始めようとするとき、また、活動を継続しようとするときに多くの中小企業は困り事を持ちます。始めるときに持つ困り事としては、① 従業員が活動に協力をしてくれない、② 環境活動についての知識・ノウハウ等が不足している などです。また、継続しようとするときには、③ 活動の効果が分りづらく継続する士気が上がらない等に直面します。EA21はこのような中小企業が環境への取組で成果が出せる仕組みになっています。  

3.EA21の概要

EA21は、中小企業が自主的に環境への取組を経営の中で進めることを前提としており、経営システムに統合して環境への取組の方針や目標を設定するためのプロセス、更に、環境目標の達成にむけて取り組む組織、体制・手続き等を含んでおり、実行性のあるマネジメントの仕組みになっています。その特徴は、PDCAサイクルを廻すことで継続的に改善が進められることです。環境への取組を組織として行い成果を出すために必要な14の実施事項をPDCAサイクルの中に要求事項として定め実施します。このPDCAサイクルによって中小企業が環境経営の実践を通して経営力の向上、組織の活性化を図ることができます。

<14の要求事項>

  • Planのステージの要求事項
    ①取組の対象組織・活動の明確化
    ②代表者による経営における課題とチャンスの明確化
    ③環境経営方針の策定
    ④環境への負荷と環境への取組状況の把握及び評価
    ⑤環境関連法規などのとりまとめ
    ⑥環境経営目標及び環境経営計画の策定
  • Doのステージの要求事項
    ⑦実施体制の構築
    ⑧教育・訓練の実施
    ⑨環境コミュニケーションの実施
    ⑩実施及び運用
    ⑪環境上の緊急事態への準備及び対応
    ⑫文書類の作成・管理
  • Checkのステージの要求事項
    ⑬取組状況の確認・評価、並びに問題の是正及び予防
  • Actionのステージの要求事項
    ⑭代表者による全体の評価と見直し・指示

4.EA21による困り事解決、活用の効果

中小企業の困り事の解消にEA21がどのように効果があるかを説明致します。

① 困り事:従業員が活動に協力をしてくれない

この困り事の背景には、従業員の環境経営への意識が低く、環境への取組への参加意欲が上がらないことがあります。EA21は、まさに組織が一丸となって取組むことを促進する仕組みであり、従業員の参画意識を高めるための要求事項が定められています。活動の目的・目標を環境経営方針として定め全従業員に周知すること(要求事項③)、そして、目標達成のための実行体制の構築、従業員の役割、責任・権限の設定・周知、必要な経営資源を用意すること(要求事項⑦)が、PDCAサイクルの中で定期的に行われ、従業員が活動に参画しやすい環境が作られます。更に、目標や取組の進捗状況の共有に加え、従業員からの意見や提案を募集するなど双方向コミュニケーションの実践すること(要求事項⑨)にも取組むため、全員参加の活動になっていきます。

② 困り事:環境活動についての知識・ノウハウ等が不足している

環境への取組を効果的に運用するためには、全従業員が取組を適切に理解し実践することが必要ですが、一般的に、環境活動に関する知識・ノウハウを初めから持つ人は多くはありません。そのため、EA21では、従業員の環境に関する知識向上や取組のモチベーションを高め全員参加型の取組を確実にできるように、全従業員を対象とした教育・訓練を実施します。 (要求事項⑧) 教育・訓練の年間計画を立て、階層別、職種別など、適切なプログラムを設定して実施することで、おのおのの役割に必要な知識・ノウハウを継続的に高めることができるようになっています。また、要求事項⑩の実施・運用においては、必要に応じて手順書の作成、運用をすることで実行性を高めることができます。

③ 困り事:活動の効果が分りづらく士気が上がらない

活動の効果が分りづらい原因としては、活動の目標が曖昧のため成果を明確に評価できない、活動の納期が決まっていなく結果の測定がされない等があります。この問題は、PDCAマネジメントをきっちり回すことで解決が期待できます。EA21では、環境への取組の有効性向上のために、環境経営目標の達成状況、環境経営計画の実施状況等を定期的に確認・評価を行い、問題点に対して、是正及び予防を行います。(要求事項⑬)そして、このPDCAサイクルの状況を定期的に第三者による審査により様々な助言を受けて効果的かつ継続的に改善・効果の創出が図れることになります。

5.その他のEA21のメリット

環境への取組に関する困り事が解消できることの他にもEA21に取り組むことで得られるメリットがあります。 

① 第三者による認証・登録制度によって社会的信頼が得られます

EA21は、第三者による認証・登録制度を有した仕組みです。環境省が認めた中央事務局の認証・登録を受けることで事業者は社会的信頼を得ることができます。認証登録によって,EA21 のロゴマークを使用でき環境への取組レベルが環境省の定める一定の水準にあることを訴求できます。さらに,認証を取得することによって,自治体からの補助や入札審査での加点を受けることができる場合もあります。

② 様々なステークホルダーの要望に応え支援を得られます

EA21は、多くの大手企業がバリューチェーン全体の環境管理,特に関係企業・取引先と協働して二酸化炭素排出量を削減していくことや,環境関連法規に係るコンプライアンスの徹底を求めるなどの傾向が強まっている中で,その期待に応え得る仕組みです。 また,多数の金融機関が, エコアクション21に取り組む事業者への低利融資制度を設けており活用の機会が得られます。

6.終わりに

EA21は、中小企業の事情を踏まえて策定された環境経営マネジメントシステムです。世の中において環境ニーズが高まっていくことを成長の機会として、このシステムを有効に活用し環境への取組を通じて生産性の向上や新事業の創出など、自らの稼ぐ力の強化を実現して頂きたいと思います。

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