「真」の女性活躍が推進される職場づくりとは?

中小企業診断士・ISO22301准審査員・第一種衛生管理者 宮木 恵美子

1.はじめに

近年、少子高齢化に伴い、労働市場では女性の活躍を推進する動きが活発です。そこで、ここでは、年間200社以上の中小企業の経営陣らに出会い、女性活躍推進アドバイザーとして組織づくりを支援してきた筆者が、実際に現場で見てきた、女性活躍を推進する上で「良い」組織のタイプ、「真似をしてほしくない組織」のタイプをご紹介します。これから女性活躍を目指そうとする組織の皆様方、ぜひ、ご参考にしていただければと思います。

2.女性が活躍できるための行動計画の策定、組織づくり

女性の活躍を目指し、2016年に施行された「女性活躍推進法」は、令和4年に大きな動きがありました。これまで301人以上の組織に義務付けられていた、女性の活躍を推進する「一般事業主行動計画」の策定が、令和4年4月より101人以上の中小企業においても策定が義務付けられることとなりました。

さらには、同年7月からは男女の賃金格差について、301人以上の組織は情報公表が義務化となり、建前だけの女性活躍の取組ではなく、「真」の女性活躍が果たされているのか否か、賃金という側面から各々の組織の取組が測られるようになった、と言っても過言ではないでしょう。

300人以下の中小企業においては、男女の賃金格差の情報公表は今のところ義務化ではないものの、過去の経緯より、場合によっては近い将来、義務化となる可能性も考えられます。今からしっかりと組織体制、人事制度の構築を準備しておく必要があります。そのためには、まず、以下の4つ基礎項目から自社の⼥性の活躍に関する状況把握、課題分析をすることが必要です。

【4つの基礎項目】

  • 採用した労働者に占める女性労働者の割合(区)
  • 男女の平均継続勤務年数の差異(区)
  • 労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
  • 管理職に占める女性労働者の割合

※(区)は、職種、資格、雇用形態、就業形態等の労働者の雇用管理区分。
 (例:総合職、一般職/事務職、技術職、専門職/正社員、契約社員、パートタイムなど)

上記の4つの基礎項目を分析することによって、自社の女性活躍の推進状況、課題が把握できます。そして、課題解決のために、「一般事業主行動計画」の策定では、「頑張りましょう」といった定性的な目標ではなく、女性の採用数や女性管理職をどの位増やすのか、男女ともに育児休暇取得率や有給休暇取得率をどのレベルまで改善するのか、といった定量的な目標を掲げます。そして、その数値目標は社内外の人々に把握ができるよう情報公表することとなっています。これらの情報は、例えば就職活動をしている人々も自由に閲覧できるようになりますので、組織側としては、目標を達成することは働きやすい職場であることをアピールすることに繋がります。

結論から申し上げますと、女性活躍を推進する組織とは、働きやすい職場づくりに取組み、その結果、人財確保、人財の維持にも長けている組織と言えるでしょう。

3.「真」の女性活躍を目指す組織の「良い」組織のタイプ

筆者が出会った、女性活躍推進の職場づくりが「良い」組織の3つのタイプをご紹介します。

① 経営陣が行動計画の策定に取組む

この①のタイプの組織は、組織の代表者や取締役といった経営陣が、毎回筆者の支援活動に参加していた組織です。自社の現場の実態を経営陣自らがしっかりと把握し、「従業員のために働きやすい職場を作ろう」といった意気込みが強くありました。某会社の社長は、「女性スタッフのサポートが今の会社を作り上げた」と述べ、「どうすれば女性スタッフが、この会社を愛してくれるのか」と真剣に制度の構築を考えておりました。

単に売上や利益の拡大だけを目指す経営陣ではないので、経営陣の「思い」や「理念」が隅々にまで浸透し、理解されていた特徴がありました。経営陣と従業員の関係が家族的な雰囲気があり、その結果、このタイプの組織は、男女ともに従業員の勤続年数が比較的長い傾向がありました。

② 現場のスタッフを中心にボトムアップの職場づくりを行う

次の➁のタイプの組織は、とにかく「現場主義」「現場目線」を強く唱えていた組織です。現場の女性スタッフや、将来のリーダー候補者たちが主軸となって、問題点の洗い出しや、その解決策などを考え、計画を策定しておりました。現場が真実の「声」をあげやすいよう、経営陣はどちらかといえばアドバイザー的な役割にすぎず、上手く現場の士気を高めておりました。そうすることにより、策定された行動計画が現場にとって取組みし易い内容となっておりました。

某会社では、初回の面談時から複数の現場スタッフと組織の代表者が同じテーブルで座って話し合いを始めましたが、常に代表者は「皆はどう考えているの?」と現場の「声」を吸い上げておりました。初回からこのような状況であったのは唯一この会社だけでした。その後、この会社は第13回「日本でいちばん大切にしたい会社」のコンテストで審査員特別賞を受賞しておりますので、このタイプの組織がこれからの未来ではあるべき姿となるのかもしれません。

③ 取組内容を予算化する

最後の③のタイプの組織は、上記の①、➁いずれかのタイプであることが前提となりますが、策定した行動計画にしっかりと予算を組み込んでいた組織です。某会社では、男性取締役と現場の女性スタッフが二人三脚で管理職の女性を増やすための「教育訓練」、リーダー候補生を対象にした「キャリア面談」を計画しました。そして、その取組みを実現するために、男性取締役が補正予算の提案を取締役会で行い、予算をしっかりと確保し、取組スケジュールは女性スタッフが舵をとる動きがありました。どんなに立派な計画を策定も、予算がなく実現が出来ないと、単なる「絵に描いた餅」です。だからこそ、予算化を可能とする行動計画の策定・実現には、経営陣と現場の団結力が必要となります。

4.真似をしてほしくない組織のタイプ

このタイプの組織は、「法律の定めがあるから、致し方なく行動計画を策定する」といった組織です。要するに、一見すると行動計画を策定し、女性活躍推進に前向きな姿勢があるのですが、実情は女性の活躍に関してはやや消極的な気持ちが見え隠れしていた組織です。よって、行動計画の中身がどんなに素晴らしいものであっても、現場との情報共有が未熟なため、従業員のモチベーションが低下し、男女ともに離職率が高い傾向がありました。人財は、組織にとって重要な成長の糧、内部資源です。どうか、女性活躍の推進は、組織の存続にかかわる事項として意識をもつよう努めて頂ければと思います。

5.まとめ

内閣府男女共同参画局「女性活躍とSDGs-サステナビリティの実現に向けて-」によると、女性の役員比率が高い組織のほうが、女性の役員がいない組織よりも、企業がどれだけの利益をあげたか、投資効率を測る指標ROE(Return On Equity:自己資本利益率)が高いとの報告があります。しかしながら、一方で、(独)労働政策研究・研修機構の「データブック国際比較2022」によると、日本の組織の管理職に占める女性割合は国際的にみるとまだまだ低い水準であり、男女間賃金格差についても他国と比較すると大きな差が存在している状況です。

これは、日本の産業界全体が国際競争に立ち遅れる危険性も帯びています。アフターコロナの時代となった今日、組織の生き残りをかけて、「良い」組織のタイプを参考に、「真」の女性活躍を推進する職場づくりを本気で行う必要があるといえるでしょう。

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