パワハラのない職場に向けて~コミュニケーション不全から心理的安全性へ

中小企業診断士・社会保険労務士 高橋 美紀

この記事に目を留めてくださった読者さんに、まず質問です。
皆さんの職場では、このような声を聞いたことはありませんか? ご自身も悩んでいませんか?

  • 仕事を進めるうえで分からないことがあっても、気軽に質問できる雰囲気にない。
  • ミスをしても正直に報告できない。
  • ミスをすると厳しく叱責されるため、チャレンジできず、適当なところで妥協してしまう。
  • 会議では、リーダーや職場のメンバーと異なる意見は受け入れられそうにないので、黙っている。
  • 改善案を思いついても、それを提案したら自分の負担が増えそうなので、実際は提案できない。
  • 「どうせわかってもらえない」と思い、周囲との関わりは最小限にとどめている。

1 コミュニケーション不全が職場に及ぼす影響

先にみたような職場では、安心して働くことができず、業績も上がらないでしょう。いつもピリピリとした人間関係のなかでは、コミュニケーションも上手くいかず、協力しながら目標に進むことはできません。

コミュニケーションが不十分であれば、今回のテーマである「パワーハラスメント(以下「パワハラ」)」は起こりやすく、かつ深刻なものになりがちです。気持ちを伝えられない、助けも求められない、いつも緊張していて周囲に気を配る余裕もないのなら、ストレスをためて爆発したり、誤解が生じやすくなって何でも悪い方向に捉えてしまったりします。令和2年度 厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」においても、現在の勤務先でパワハラを受けた経験があると回答した人の37.3%が「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」と回答しています。(※1、調査結果は以下グラフ参照)

2 「パワーハラスメント」の定義

ここで、パワハラの定義について確認しておきましょう。(※2)
厚生労働省によると、職場のパワハラとは、職場において行われる

  1.  優越的な関係を背景とした言動であって、
  2.  業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  3.  労働者の就業環境が害されるものであり、
  4.  1. から 3. までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

もっとも、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しないとされています。

3 「パワハラか否か」の判断より重要なもの

現場で戸惑うのは、「適正な業務指示や指導」と「パワハラ」の線引きでしょう。「パワハラを気にしすぎるあまり、必要な指導もできなくなった」と嘆く経営者・管理者も多いと思われます。

もっとも、実際の職場で「パワハラかどうか」の判断に労力と時間を使うのは、あまり意味のないことです。パワハラであろうがなかろうが、当事者や周囲が嫌な思いをするのは事実であり、それによって能力発揮が阻害されます。また、中小企業なら、トラブルがあったからと言って配置換えができるとも限りません。そして「退職すれば済む話」と切り捨てられるほど、人材がいるわけでもありませんし、何よりそこで働く人の存在をないがしろにすることは許されません。

トラブルを防ぐために大事なのは予防、つまり気持ちよく働ける職場づくりです。言い換えれば、冒頭でチェックしていただいたような職場にしないことです。

4 「心理的安全性」の高い環境をつくる

冒頭のチェックと真逆、すなわち安心して自分の意見や考えが言える環境のことを、「心理的安全性が高い」状態と言います。心理的安全性の高い職場は、メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げます。

この考えは、もともとは1999年にハーバード大学教授のエイミー・エドモンドソン氏が提唱し、その後、2015年にGoogleが「成功するチーム」の要素の一つとして挙げ、注目されるようになったものです。

では、具体的にどのような条件が揃っていれば、心理的安全性が高いと言えるのでしょうか。これについては、株式会社ZENTechおよび慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科の研究チームが、心理的安全性をつくる「4つの因子」について、以下のように紹介しています。(※3)

  1. 話しやすさ:反対意見・ネガティブな報告でも隠さず言える
  2. 助け合い:問題発生時に犯人探しをせず助け合って解決できる、いつでも気軽に相談できる
  3. 挑戦:チャレンジを勧められる、いつでもアイデアを共有できる
  4. 新奇歓迎:個性を発揮することや、常識にとらわれないことを歓迎される

では、どうすればこのような職場がつくられるでしょうか。まずは経営者や管理職がメンバーを尊重し、「大丈夫、安心して発言していいんだよ」と発信することです。ある意見に対して批判が先に立つメンバーがいたら、「ダメ出しする前にとりあえず○○さんの話を聴いてみようか」と声をかけてください。

それでも、意見を言いづらいと感じるメンバーもいるかもしれません。それなら、自ら声をかけ、発言を促してみましょう。定期的なミーティングを行い、対話の機会を設けるのも有効です。

もちろん、その発言が全く的外れであることもありえます。それでも受け入れなければならないのか、かえってイライラしそうだ、という困惑も聞こえてきそうです。そのようなときは、まずその行動に着目し、「意見を言ってくれてありがとう」と伝え、その後でその意見そのものを評価すると、相手は受け入れやすいでしょう。これはミスの報告の際も同じです。はじめに、「報告してくれてありがとう」と伝えることで、相手は安心します。

心理的安全が高い職場では、ハラスメントや人間関係のリスクが減るだけではなく、率直な意見が出やすくなり、イノベーションが促進されます。悪い報告が上がりやすくなれば、トラブルが放置されることも減り、不祥事が起こりにくくなります。それによって職場がより良い方向に向かえば、生産性そして業績の維持向上につながり、働くメンバーにも余裕が出ます。

この好循環に入れるように、ぜひ、今からできることを考えてみてください。

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 日時: 2024年3月6日(水) 14:00~16:00
 場所: オンライン開催
 参加費: 無料

詳細ならびに申込方法はこちらをご覧ください。

※1 厚生労働省ホームページ「職場のハラスメントに関する実態調査について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000165756.html
※2 厚生労働省「あかるい職場応援団」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/definition/about#pawahara
※3 「心理的安全性のつくりかた」石井遼介著、日本能率協会マネジメントセンター、2020年9月発行

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