健康経営・ウェルビーイング経営による人材活用のすすめ

中小企業診断士 平田 光

1.人手不測の現状

2024年1月に実施した「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」によると、人手が「不足している」と回答した企業の割合が65.6%に上り、3社に2社が人手不足という厳しい状況が続いています。
(参考:J-Net21中小企業NEWS  日本商工会議所と東京商工会議所の1月実施調査)

2023年10月における川崎市中堅・中小企業調査においても、約6割が人材不足との認識を持っており、人材不足緩和のための取組みとして、「中途採用拡充」「求人募集時の賃金引上げ」が上位を占め、人件費を増やし、待遇を改善することで対応している状況です。
(参考:川崎市内中堅・中小企業経営実態調査レポート 令和5年10月31日)

確かに賃上げは、離職防止や新規採用に有効な手段の一つですが、他社も同様の取組みを行っているため差別化が難しいです。そこで、社内人材の有効活用と採用活動の双方に中長期的に好影響を及ぼす、健康経営・ウェルビーイング経営への取組みをお勧めします。

2.健康経営とは

健康経営とは、企業が従業員の健康管理を経営課題としてとらえて積極的に改善に取り組むことです。従業員の健康を増進することで人材不足への対応、生産性の向上や組織の活性化を期待できます。

従来、健康管理は従業員個人が実施するものと考えられていました。しかし、従業員の健康保持・増進が企業全体のパフォーマンスに大きく影響することが明らかになった現在では、健康経営の実施は会社を成長させる投資であるとされています。
(参考:健康経営DSマガジンより https://hr.ds-b.jp/what-is-healthy-company/

健康経営の日本での取組みは、2013年の日本再興戦略をきっかけとし、本格的な取組みが始まり、健康経営優良法人制度などの施策が進められてきました。
(参考:Wellness Knowledge ウェルナレ)

1)健康経営が注目される背景

経済産業省や自治体などの行政が旗振り役として積極的に推進し、昨今、多くの企業も取り組んでいる背景には、少子化による生産年齢人口の減少と人手不足の深刻化があります。ご存じのように少子高齢化によって生産年齢人口(15歳~64歳の人口)が急減しています。

パーソル総合研究所の調査によれば、2030年には日本全国で644万人の労働者が不足するとされています。人手不足は今後も深刻化が予想されるため、企業を持続的に発展させるには従業員に健康で、長く働いてもらう取組みが不可欠です。そこで今後の人手不足に備えて、健康経営に取り組む企業が急増しています。

2)健康経営のメリット

  • メリット1:労働生産性の向上
    過労・メンタル不調によって従業員の欠勤・休職が発生している状態(アブセンティーイズム)では、他の従業員がその人の分まで仕事を抱えることになり、業務の負担が急激に増加します。それによって他の従業員も健康状態を崩したり、離職するなどで、さらに労働環境が悪化していく、といった負の連鎖が続きかねません。
    また、出勤してはいるものの、心身の健康状態に不調をきたして従業員が本来のパフォーマンスを発揮できない状態のことを、プレゼンティーイズムと呼びます。このプレゼンティーイズムによる労働生産性の損失額は、医療費やアブセンティーイズム(病欠など)と比較して、実は突出して多いとのデータがあります。


    健康経営の推進で従業員が心身共にすこやかな状態を維持できるようになれば、アブセンティーイズム・プレゼンティーイズムを減少させ、労働生産性を最大限発揮できるようになります。
  • メリット2:求職者へアピールし、採用活動を強化できる
    健康経営への取り組みを積極的にPRすることで、求職者を募集しやすくなります。健康経営の活動を告知し、社員を大事にしている会社なのを伝えられれば、他企業に比べて大きなアピールポイントになります。健康経営優良法人などの表彰を受ければ、健康経営に真剣に取り組んでいる企業であることが客観的に保証されるので、より効果的になります。
    (参考:健康経営DSマガジンより  https://hr.ds-b.jp/what-is-healthy-company/

3.ウェルビーイング経営とは

ウェルビーイング(Well-being)とは、心身ともに健康で、かつ社会的にも満たされた状態を指す言葉です。ウェルビーイング経営とは社員一人ひとりの仕事への意欲やエンゲージメントを高める手法であり、企業に関わるすべての人の幸せを目指す経営を意味します。健康経営が推進される中、その先にある社員の「幸福」に焦点を当てたウェルビーイング経営も、2020年頃から多くの企業の注目を集めています。
(参考:パソナHP  ウェルビーイング経営より https://www.pasonagroup.biz/

1)ウェルビーイング経営のメリット

健康経営と同じく、生産性向上や社員の離職防止、新たな人材活用が期待できます。さらに働きやすい環境が整うことで職場の雰囲気がよくなり、社員のストレス軽減から、仕事に対するモチベーションやパフォーマンスが向上します。昨今では、就職・転職活動における「口コミ」の重要性が上がっています。ウェルビーイング経営によって働きやすい職場には優秀な人材も集めやすくなります。

2)健康経営とウェルビーイング経営の違い

健康経営は「企業」の視点から施策を考えますが、ウェルビーイング経営では「従業員」の視点に立って施策を検討することが最も大きな違いです。健康経営は「経営者からのトップダウン」、ウェルビーイング経営は「現場からのボトムアップ」と言えます。また健康経営では「身体・精神の健康」を重視しますが、ウェルビーイング経営ではそれらに加えて「社会的」にも満たされた状態(福祉の状態)にも着目します。

4.健康経営・ウェルビーイング経営への取組み方・支援組織

まず経営者が健康経営への理解を深め、健康経営宣言を行う、担当者を決め、プロジェクトチームを発足させる、などトップダウンで取組みを開始するのが良いでしょう。取組み方の一つとして経済産業省が推進する「健康経営優良法人」認定制度への申請を目指すという方法もあります。詳しくは、経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」を参照ください。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html

東京商工会議所の「健康経営倶楽部」では、健康経営を実践する企業をサポートするための様々な情報発信を行っています。また、「東京都職域健康促進サポート事業」として、専門家による5回まで無料のサポートもあります。各々の職場の状況に適した具体的な取組みを支援しています。
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/

健康経営からスタートし、プロジェクトチームが軌道にのってきた段階で、従業員からのボトムアップを活用してウェルビーイング経営にも取り組みましょう。身体・精神の健康のみならず、社会的にも満たされている状態を目指す為には、企業の経営理念やパーパスなどの明確化・見直しも効果的です。
公益財団法人日本生産性本部では、ウェルビーイング経営支援サービスを提供しています。
https://www.jpc-net.jp/movement/committee/mental/wellbeing_management.html

川崎市内の多くの企業が、健康経営さらにウェルビーイング経営に取り組むことで、経営者と従業員の方々が健康に幸せに企業活動を推進し、地域発展に貢献されることを期待いたします。

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