生き残る介護事業者になるために、絶対押さえておくべきマーケティング
- 2024/11/1
- 診断士の視点
中小企業診断士・臨床検査技師 中野 葵
なぜ介護事業にもマーケティングが必要なのか
「マーケティングに取り組んでいるとは言えないけれど、集客はできているし…」と思われる事業者様も多いのではないでしょうか?介護事業において、特に施設型は長らく「入所まで順番待ち」という状況が続き、積極的に集客に取り組まなくてもお客様が確保できていました。政府はその状態を解決すべく、他業種からの介護事業への参入を奨励してきました。その結果、数の不足は解決傾向にあり、一部地域では「介護施設余り」も起きつつある状況です。また大手介護事業者の台頭によって、今後ますます競争が激化することが予測されます。
マーケティングのステップ
さて、マーケティングについてですが、いきなり「お客様に宣伝したいから、SNSアカウントを開設しよう」というような事業者さんも少なくありません。介護事業におけるマーケティングも基本的には他業界と同じです。ここでは以下のようなステップで解説していきます。
- 現状を分析する
- 目標を決める
- 自社の価値を伝える
- 施策を実行し、振り返り、改善する
それぞれについて、見て行きましょう。
1.現状を分析する
まずは現状を分析しましょう。 分析するものは主に「自社」「外部環境」「顧客」です。
自社
介護事業であれば、事業種別が特養なのか老健なのか、それともデイなのか、というのが1つ重要な要素です(後で述べますが、これによって対象とする顧客がある程度決まるからです)。
外部環境
外部環境で重要なものはやはり「競合」です。 近隣の事業所のホームページやパンフレットなどをから、どのような事業所なのか、強みは何か、などを調べましょう。またご自身の事業所に転職してきた職員さんからも情報が得られることもあります。
さらに、事業所がある地域や周囲の環境はどうでしょうか? 高齢者はどれくらいいるか、増加傾向か減少傾向かなどを見ます。また周囲にはどのような病院・診療所があるのか、それらとの関係性なども洗い出しておきましょう。
顧客
介護事業は事業種別によって、ある程度、対象とする顧客が決まります。彼等がどのような悩みをかかえ、どのようなサービスを必要としているか、また、どのような方法で情報収集をしているか、などを整理しましょう。
ここで注意が必要なのは、サービスを得るという意味での顧客は介護サービスを利用する高齢者ですが、介護事業所を選択するのはそのご家族であることも多いです。特に高齢者の方のお子さんやその配偶者です。
おそらく、経営者の皆さんが同年代である場合もあるでしょう。そのようなときはご自身が親御さんの場合ならどんな事業所がいいか、どんな媒体を使って情報を得ているか、という実体験・想定がとても参考になります。
2.目標を決める
マーケティング施策を行う際には、必ず目標を設定しましょう。そうでないと実施した施策がよかったのか、悪かったのか、振り返りができません。
これからマーケティング施策をする上で何を達成するか、そしてそれを評価できる数値目標を決めます。これまでの実績を参考にしても構いませんし、新規で事業を始める場合は一旦ある程度の仮の数字を立ててみましょう。インターネットで検索すると例えば「〇〇からのお申し込み率は〇%」という数字が情報として見つかります。
これらも参考にまずは目標を立てましょう。
3.自社の価値を伝える
情報の整理が終わったら、いよいよ実際の施策について考えます。
自社の顧客価値(顧客にとって嬉しいこと、顧客の悩みを解決し、欲求を満たすもの)をしっかりと伝えましょう。端的な分かりやすい言葉で、画像なども使って伝えるようにします。
伝え方も大切なのですが、媒体選びも重要です。ホームページやチラシ、SNS、テレビCMまで様々な媒体がありますが、それぞれの特徴を加味し、どのような役割を持たせるかを考えて選定します。また、その媒体は顧客が介護事業所の情報を収集しているときによく使うものである必要があります。
4.施策を実行し、振り返り、改善する
ここまで準備が出来たら、あとは実行あるのみです。
これまで練り上げてきた計画を実施しましょう。
そして実施後は目標設定に対して、結果がどうであったかの振り返りを行います。
数値目標が達成できなかった場合は、なぜできなかったのかを振り返り、それを解決できるような方向にやり方を切り替え、改善します。
数値目標が達成できた場合は、よかった点をきちんと振り返ります。うまく行った事例は会社の財産となり、今後も参考になるでしょう。
その他、必要なこと
最後に、広告宣伝だけではない、マーケティングにおける施策についてご紹介します。
社内で一体となって実施する
マーケティングはマーケティング担当者だけがするものではありません。
電話での見学・相談のお申し込みをされる顧客も多いため、電話のコール音が鳴ったら事務の方がすぐに出るようにする、なども立派なマーケティング施策と言えます。
また、相談時や事業所見学時の際のQ&Aを整えておくことや、説明内容などもきちんと決めておくことも大切です。
従業員の満足度を向上させることで、顧客の満足度も向上させる
「なぜ、従業員の満足度が必要なの?」と思われる方も多いでしょう。
介護サービスは職員さんの手を通して直接、利用者やご家族に届けられるものだからです。エンゲージメントの高い従業員は、より質の高いサービスを提供します。
従業員の満足度は待遇面はもちろん、労働環境や設備、仕事における適正な裁量を与える、職場の人間関係を良好に保つことで向上が見込めます。
質の高いサービスにより、顧客の満足度が向上することで「良い口コミ」「ご紹介」などに繋がります。
これらは強力なマーケティング施策と言えるでしょう。
おわりに
川崎市は日本で一番、介護施設が密集した地域と言われています。
それは東京都と横浜市に挟まれた地域であることが関係しており、大都市圏の高齢者の受け皿となっているのです。
このような条件にある地域では激しい競争状態がすでに起きています。
ぜひ、この記事でご紹介したものを少しずつ実施していただき、競争の中で残っていける介護事業者になってください。もし、実施に関してお困り事があるようでしたら、私たち「川崎中小企業診断士会」にご連絡ください。
多様なスキルや経験を持つスペシャリストたちが、皆様をしっかりサポートします。