はじめての海外輸出 – 最初に知っておくべき不安への対処法

中小企業診断士 岸田 幸宏

1. 海外市場の魅力

日本の国内市場は、少子高齢化や人口減少により、長期にわたり縮小傾向にあります。また、新型コロナ禍以降の日本の国内事情を見ると、円安や資源価格の高騰、人件費の増加などによるコスト増加に苦しむ中小事業者が増えており、なかなか明るい材料を見つけることが難しい状況です。これに対し、海外に目を転じると、新興国における人口増加などにより、ダイナミックな成長が続く、大きく魅力的な市場が広がっています。昨今のインフレ要因である円安も、海外輸出を考えた時には、むしろ絶好の機会となります。2022年の中小企業実態基本調査によると、2021年度に直接輸出を行っている中小企業は4万社(全中小企業の1.2%)に上ります。さらに、経済産業省、中小企業庁、ジェトロ及び中小企業基盤整備機構が一体となり、全国の商工会・商工会議所等と協力して、新たに輸出に挑戦する中小事業者を支援することを目的として2022年12月より【新規輸出者1万者支援プログラム】が開始されています。こうした支援プログラムや支援機関を活用することで、より海外輸出しやすい環境になりつつあります。実際に多くの中小企業が海外市場に進出し、成功を収めています。輸出は決して夢物語ではありません。

2. 輸出に対する不安

「輸出」と聞くと、馴染みのない方には、「何から手を付けたらいいのかわからない、雲をつかむような話」、あるいは「大企業の話で中小企業にはあまり関係ない世界」と感じられるかもしれません。初めて輸出に挑戦する際、多くの中小企業が直面する主な不安には、以下のようなものがあります。

  • 販路に関する情報不足への不安:

「そもそもどの国にどんな需要があるかわからない」「どこに輸出すればいいかわからない」「どうやって販売先を見つけられるのか?」など、売り先に関する情報が少なく、情報の入手経路も限られていることに対する不安

  • コミュニケーションに対する不安:

「言葉が話せないのに、ビジネスがちゃんとできるのか?」といった不安

  •  商習慣や文化、法令、価値観の違いに対する不安:

「国によって異なる商習慣や文化、価値観の違いがあっても売れるのか?」「取引の際、トラブルになるのでは?」といった不安

  • 貿易実務に対する不安:

「輸出ってどうやって送ればいいの?」「代金をちゃんと回収できるの?」という輸出手続きなどに対する不安

3. 不安に対する対処法

このような不安に対して、いくつか代表的な対処方法をご紹介します。販売代理店や商社、国際物流企業などのパートナー企業がある場合は、そこから情報を得ることもできますが、何もコネクションが無い状態であれば、まずは独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)に相談してみることをお勧めします。ジェトロは、日本の貿易と投資の促進に寄与するために設立された公益法人で、世界中の豊富な経験と知識を活用し、日本企業が海外市場へアクセスする手助けを行っています。

  • 販路に関する情報不足への対処法:

見本市・展示会に出展すれば、短期間に多くのバイヤーと接触することができ、効率的に商談を進めることができます。ジェトロでは日本国内で海外企業のバイヤーを招いた商談会の開催、海外展示会への参加支援、海外企業とのマッチングサイト運営などにより、販路開拓支援を行っています。また、海外企業の調査で入手した現地の販売代理店候補となる企業のリスト提供なども行っていますので、最初のきっかけをつかむことにつながります。

  • コミュニケーションの不安への対処法:

即効性が高い方法としては、相手国の言語ができる社員を採用する、プロの通訳者を雇う、などが考えられます。また、近年、かなり精度が高くなってきた翻訳ツールやアプリを使用することも言葉の壁を低くするために有効です。すぐに言葉を覚えられなくとも、身振り手振りや、視覚的に製品を理解できるようにする、といった非言語的コミュニケーションも効果があるので、積極的に使っていきましょう。ただし、商談、契約などの最終段階では、慎重に専門家を介して進めることをお勧めします。

  • 商習慣や文化、法令、価値観の違いへの対処法:

ジェトロでは海外ネットワークを活用し、各国のビジネス情報や輸出入の規制や関税、税金などについて情報を提供しています。また、商談会や展示会での経験、専門家への相談、インターネット上の様々な情報も活用しながら、情報を蓄積して相手国への理解を深めていきます。

  • 貿易実務を学ぶ方法:

輸出に当たっては、実際にモノを相手国に送るために必要な輸出手配の流れや必要書類、通関や関税などの手続きについても理解しておく必要があります。ジェトロや商工会議所などで、貿易実務の講座やセミナーの開催、相談を受け付けているので、活用していきましょう。

おわりに

中小企業が海外市場に進出することは、売上を大きく伸ばす可能性を秘めた成長戦略の一つであると同時に、円高/円安、地域による好況/不況、災害や地政学リスクなどの経済環境によるダメージを相殺する役割を果たすことにもつながります。情報不足や言語の壁、商習慣の違いなどの課題に対しては、国や商工会議所、中小企業診断士などの専門家にご相談ください。私たち「川崎中小企業診断士会」でも、専門家の支援により、より円滑に皆様の輸出をサポートいたします。今後、より多くの日本の中小企業が海外市場に挑戦し、成功を収めていくことを期待しています。

参照情報

ジェトロホームページ 「新規輸出者1万者支援プログラム」
https://www.jetro.go.jp/ichiman-export.html

日本商工会議所ホームページ 「海外展開支援施策一覧」
https://www.jcci.or.jp/support/international/expansion/

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