お客様と一緒に価値を創り出す ~価値共創~
- 2025/3/1
- トピックス

中小企業診断士 新井 一成
利用価値と文脈価値

「1/4インチのドリル」という話を聞いたことがありますでしょうか?1/4インチのドリルというのは、米国の工具店で一般的に売られている(直径6mmほどの)ドリルです。このドリルが買われるのは何故でしょうか?という話です。
購入者はドリルが欲しいのではありません。では何が欲しいかというと「穴」が欲しいのです。購入者はドリルを買っているのではなく、そのドリルを使ってあける「穴」を買っているのです。このように、販売されるモノと、購入者が欲しいモノが、必ずしも一致しないことは珍しいことではありません。
さらに言うと、購入者は「穴」が最終的な目的ではなく、その穴に何かを取り付けたいのかもしれません。つまり最終的な目的は購入者ごとに、また購入者のおかれている状況により、さまざまに変わります。 このドリルの販売価格が300円であったとすれば、「300円」はこのドリルの「交換価値」と呼ばれます。そして、ドリルを使ってあけた穴の価値は「利用価値」と呼ばれます。利用価値は、購入者が何個穴をあけるのか、などによって異なります。さらにその穴の最終的な利用目的は「文脈価値」と呼ばれます。購入者の状況によって、「文脈価値」はさまざまに変化することになり300円という価格とは全く異なった考え方で決まることになります。
価値共創
次にドリルによって利用価値や文脈価値が生み出される過程を考えてみます。ドリルの購入者はそれを使って穴をあけるわけですが、手慣れた人であれば、上手にまっすぐの穴をあけることができるかもしれませんが、初心者の場合には、斜めに穴が開いたり、穴の位置がズレてしまったりすることがあります。うまく穴があけられなければ、最終的な目的を達成することができず、文脈価値を得ることができないため、あけ直しということになるかもしれません。つまり購入者のスキルしだいで、利用価値や文脈価値が変わってくるのです。
どのような商品であっても、その利用局面では、かならず購入者(利用者)が関わることになります。ドリルのように利用者のスキルに大きく依存するものもあれば、利用者のスキルをほとんど必要としないものもありますが、多少なりとも利用者が関わることは避けられません。 このように、利用価値や文脈価値を考えると、その価値を生み出しているのは、もともとの商品(ドリル)だけではなく、「商品と利用者が共同で価値を生み出している」と考えることができます。このように利用者との共同によって価値を生み出すことを「価値共創」と呼びます。

商品の価値を高める
商品を販売する場合、できるだけ高く売る(交換価値を高める)ことはビジネスの鉄則ですが、そのためには、利用価値や文脈価値が十分に高いことが必要になります。利用価値や文脈価値が低ければ、利用者はその商品を高い価格で購入しようとは思いません。 ところが、前述のように「利用価値」「文脈価値」は、商品単独では決まらず、利用者と共同で生み出す価値共創によって決まるのです。
それでは、価値共創の結果生み出される価値を高めるためにはどうしたらよいのでしょうか?
まず第一に、商品の機能などを改良・工夫して、利用者のスキルに依存せずに使えるようにすることが考えられます。ドリルの例で言えば、ドリルの刃の形や角度を工夫して、穴の角度を維持しやすくしたり、穴の位置がズレなくしたり、することが考えられます。「全自動○○」といったような機能を持つ商品も、これにあたります。
二つ目の方法は、利用者に対して、商品の使用方法のノウハウを伝えて、利用者のスキルを高めることが考えられます。ドリルの例で言えば、上手な穴あけ方法の動画を作成して、利用者に提供することなどが相当します。
さらに三つ目の方法として、利用者が行う作業を商品の提供者が代行することで、利用者のスキルをほぼ不要とすることが考えられます。ドリルを売る代わりに穴あけサービスを提供することなどが相当します。

価値共創の現場に迫る
このように共創される価値を高めるためには、大切な前提があります。それは、価値が共創されている現場を知ることです。つまり、利用者が商品を利用している現場で、利用者はどのようなスキルを使って、どのように商品を利用しているのかを知ることが、なによりも大切になります。
そこで、商品を企画・改良する場合には、あらゆる手段を尽くして、価値共創の現場の情報を集めることになります。商品によっては、最終顧客がわからないような場合もありますが、販路などを通じてできるだけ情報を仕入れることに努めます。最近では、IT/IoTなどの技術を使うことで、利用現場の詳細情報を収集することが可能な場合もあります。これらも活用して価値共創の現場に迫ることになります。
価値共創の現場に迫ってみると、場合によっては商品提供側が意図しない使われ方がされている、言い換えれば意図しない価値共創が生じている場合があります。このような場合は、商品に今までにない全く新しい価値を付加するチャンスであるともいえます。利用者の使い方を学び、利用者と一緒に創り出す新しい価値を高める工夫を込めた商品が提供可能になるわけです。

お客様との価値共創で考える
商品やサービスの企画をするときに、「お客様と一緒に価値を創り出すこと」つまり「価値共創」を意識することによって、一歩進んだアイデアを生み出すことが可能になります。価値共創を意識して発想の転換を図ってみませんか?