2023年9月15日（金）に、第136回かわさき起業家オーディションの最終選考会が川崎市産業振興会館で開催されました。当オーディションは公益財団法人川崎市産業振興財団が主催し、平成13年の第1回から数えると応募者2,400名以上、受賞者は800名を超えています。財団の三浦理事長は冒頭で、当オーディションをスタートアップ企業とパートナー企業（現35社）やその顧客が協業するプラットフォームとしたい、さらに既存企業にとってもビジネスの再構築に向けた刺激となり、地域が元気になることが期待されるなどと述べられました。

折りしも、オーディションの翌日には日本の高度経済成長を支えた川崎にとって歴史的な​瞬間​​​​​​​​​​​​​​​が迫っていました。その日、JFEスチール東日本製鉄所京浜地区の100年余り続いた高炉の操業​が休止されたのです。まさに産業の大転換が進む今、中小企業には生き残りをかけた変革、事業展開が求められています。従前の取組・考え方の延長では、これらの変化への対応が難しくなってきていると感じます。

今回もリアル参加者、オンライン参加者、総勢150名が見守る前で、ビジネスアイデアの熱いプレゼンテーションが繰り広げられました。多数の応募の中から最終選考会に勝ち残った5名の共通点は、社会的課題を解決する製品サービスを開発し市場の声を聞いて改良改善している点でした。

川崎中小企業診断士会 応援賞は今井結菜（いまいゆうな）様、株式会社ロビーム 代表取締役 石原良太郎（いしはらよしたろう）様 お二人に贈呈しました。

一人目の今井様は当オーディション史上最年少の中学2年生です。起業について学べる都内の学校に通っています。ビジネスアイデアのテーマは「神社仏閣のコミュニティサイトを通じた観光地発掘プロジェクト」です。具体的には、神聖な神社仏閣の空間で癒しを求める若い世代を対象に、川崎市を中心とした神社仏閣のコミュニティサイトを構築し、投稿者から寄せられた風景、ご利益、御朱印、「推し坊主」の情報などを提供します。

このビジネスアイデアに至ったきっかけは、中学受験で心が疲弊していた今井様ご自身の体験にありました。成績の伸び悩み、他人との比較による自己嫌悪、受験自体に対する目的意識の低下、相談場所の不足などで悩んでいました。そんな中、今井様が訪れたのが神社仏閣でした。そのままの自分を受け入れてくれるような神聖で厳かな気持ちになり、心が洗われたそうです。氏子や檀家の減少で存続すら危うい神社仏閣を守りたい、その想いで起業について学べる中学に通い、今回のオーディションに参加されました。

弊会では、創業者が中学生という点、「推し坊主」という発想、ビジネスプランをブラッシュアップしていく過程での市場性や収益性の堅実な検討姿勢などを特に評価しました。他のサイトを比較検討するだけでなく、友人や親御さんからアンケートを取り、多数の神社仏閣へ実際に足を運ぶなどして市場性を調査しています。事業性を高めるために収益の源泉を多面的に模索し、広告収入や神社仏閣のPR代行費用を想定しています。川崎市と協業して企業版ふるさと納税の寄付も視野に入れています。英語版サイトも作成し、インバウンド需要も取り込む予定です。

今井様は個人的な悩みや関心を学生の自殺者の多さや神社仏閣の減少といった社会的課題として捉え、起業という形で向き合っています。弊会からの応援賞の贈呈によって、悩みや課題を抱える方に解決方法として起業という選択肢もあることを知ってもらうきっかけになればと願います。

SORYO事務所 今井結菜様 SNS

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二人目の贈呈者である株式会社ロビーム代表取締役の石原様は、定年退職後に起業した方です。これまでも社会貢献を中心に事業を展開してきました。今回​応募した新​しいビジネスアイデアのテーマは、「移動式無煙『ミニピザ窯』―ピザを焼いて、まちを元気に」です。お店以外の場所で本格ピザを手軽に食べたい人に、軽量コンパクトで美しいフォルムのドーム型ピザ窯を製造販売していきます。

このビジネスアイデアに至ったきっかけは、ピザ焼き体験を通して子供たちに五感を磨き人間性豊かに育ってほしいという開発者の理念や想いに触れ、感動したからだそうです。

弊会では、開発者の社会貢献活動の中での熱い想いをくみ取りながら、石原様ご自身が実業家として市場性や事業性をしっかり検討し、ビジネスとして実現可能な計画に落とし込んでいる点を特に評価しました。石原様は競合他社の多種多様な製品を多面的に分析し自社の製品力を強化しています。例えば知的財産権を確保し差別化を図っています。ほどよい焼き加減が可能な蓄熱材と断熱材の組み合わせ、わずかな炭でも400度まで温度が上がる構造は実用新案権を取得しています。軽量・コンパクトで美しいフォルムは意匠登録しています。また、３Ｄプリンターで金型を作るなど手頃な価格を実現する生産方法を確立しています。さらに、一酸化炭素中毒や火傷、転倒などのリスク管理と安全対策を強化しています。

販売戦略も計画的であり、事業の実現可能性が高いと評価できました。Youtuberによる宣伝、クラウドファンディング、AmazonとBaseでのＥＣ販売、川崎市のふるさと納税返礼品への応募など、ターゲットに合わせ、購買行動を促す導線が引かれています。

弊会からの応援賞の贈呈によって、大人も子供も一緒になって「熱い！」「臭い！(笑)」「楽しい！」「カリッとしている！」「美味しい！」など歓声を上げながら環境について語り合う、そんな場が増えることを期待します。

株式会社ロビーム様 公式HP

https://www.robeam.co.jp/pizza/

次回第137回のかわさき起業家オーディションは、応募締切日を令和5年10月3日（火）、最終選考会を令和5年12月8日（金）に予定しています。募集対象は、創業だけでなく、新分野進出または協業による新製品・新技術・新サービスの創出を目指すビジネスプランです。読者の皆様も、かわさき起業家オーディションへのご応募、最終選考会へのご参加を是非ご検討ください。

https://www.kawasaki-net.ne.jp/bizidea/compendium.html

（文責：創業支援部　湯浅 尚子）